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第8章 わが国の港湾財政に関する問題点の検討

 

1. はじめに

 

わが国の港湾では、効率的な物流システムを整備するための施策として物流機能や生産機能、保管機能を高度化するための投資が行なわれてきた。とくに近年の傾向として、複合一貫輸送の進展とともに、輸入インフラストラクチャーヘの需要が増えている。そのため、外貿コンテナ・ターミナルの建設、陸上輸送部分の輸送を効率的に行なうための内貿ユニットロードターミナルの整備、幹線臨港道路の整備などによる輸送サービスの高度化がすすめられている。

一方で、港湾サービスを高度化する政策がとられることにより、港湾管理者(おもに地方公共団体)の財政的な負担は年々増加し、主要8港を含めた港湾事業全体の収支状況は悪化を続けている。地方公共団体の一般会計から特別会計(港営事業会計)への繰入れや負担金の増加、あるいは公債費の増加などが港湾管理を行なっている地方公共団体の財政に影響を及ぼしていることが、実務家や研究者により繰り返し指摘されてきた。

本章の目的は、港湾管理者の港湾事業会計のしくみをさまざまな角度から点検することによって、港湾整備の意思決定に影響を及ぼしている制度的な要因を整理すること、ならびに地方公共団体が費用対効果的な港湾整備を行なうために必要とされる財政的環境について検討することである。

本章の構成は以下のとおりである。第2節で港湾整備特別会計の概略と制度的な問題点を述べたあとで、第3節では港湾管理者の全体的な財政状況について、これまで指摘されてきた港湾財政の問題を点検する。続いて、主要8港の港湾収支状況が伝えている情報の中身を考える。ここでは、収支のバランスに注目して、いわゆる「欠損」が地方公営企業としての港湾事業の経営にどのような影響を与えるのか、そしてどのようなメカニズムで「欠損」が補填されているのかを解説する。ちなみに、本節で述べる地方公営企業会計の視点からみた財政問題は、港湾事業だけでなく地方公共団体が運営する他の地方公営事業に共通する構造的な問題でもある。

第4節では、港湾管理者の港湾事業会計の費用と収入について、これまでに指摘されてきた問題点を整理し、それらの原因について考察する。一般には、港湾事業の経常収支の損益が注目されやすい。その理由は、港湾事業の一部が独立採算性のもとに運営され、企業としての経済性を発揮することが期待されているためである。しかし、長期的な視点からみたときに重要なことは、港湾管理者としての地方公共団体が税金を投入して港湾建設や運営を行なう場合に、機会費用としての税金が効果的に使われ経済的な便益を生み出しているのかどうかを事後的に点検することである。

第5節では、地方公共団体の全般的な財政状況に視点を変え、いま地方財政が直面している危機的

 

 

 

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