サービスを需要する貨物量を意味している。
また、V=D(S|A)は需要関数を意味し、所与の社会・経済活動システムAのもとでの海運需要を意味する。関数は需要が提供されるサービスレベルによって変動することを表わす。しかし、本研究では、短期的に外貿貨物のOD需要が一定として取り扱う。
さて、輸送市場において、サービスと需要が均衡した結果、物流が発生し、均衡貨物量V*、均衡サービスレベルS*が出現する。この均衡したサービスレベルS*と均衡した需要V*の組を均衡フローF={S*,V*}と呼ぶ。図表中のループ(?T)は、輸送市場の短期的均衡過程を示し、ループ(?U)および(?V)は、物流フローFがトランスポーテーション・システムTや社会・経済活動システムAに長期的に影響を及ぼしシステムを変更させていき、再び、新たな均衡に達する長期的均衡過程を示している。以下、このような短期的均衡はフロー均衡、長期的均衡はシステム均衡と呼ぶことにする。
(2) 海運ネットワーク均衡のゲーム論的解釈
上記のような輸送市場における均衡過程は、トランスポーテーション・システムのオペレーター(いまの場合、政府と船社)と需要者(いまの場合、荷主)の間のゲームの均衡過程とみなすことができる。なぜなら、オペレーターは種々の輸送サービス代替案(オペレーター戦略と呼ぶ)をオプショナルに選択でき、荷主は、利用港湾や船便(仕出し・仕入れ港湾の選択、船便への貨物配分を選択;荷主戦略と呼ぶ)をオプショナルに選択できる状況のなかで、両者は自己の利益最大化あるいは費用最小化を目指し、自己の目的達成のために、最適戦略を選択しようとする。このような状態は、輸送市場において、両者が自己の目的達成に向けてゲームを行なっている状態であると解釈できる。
従来の多くの研究では、輸送市場におけるゲームの参入者(プレイヤー)は対等なプレイヤーであるとの前提で均衡解を求めていた。あるいは、均衡した状態を記述する分析(均衡需要の分析)を行なっていた。このような対等なプレイヤーによるゲームの均衡はクールノ均衡(または、ナッシュ均衡)と呼ばれている。しかし、現実には、両者は戦略の提示において全く対等な立場ではない。なぜなら、オペレーターは、航路や寄港地、運賃料率を荷主に先立って決定することができる自由度をもつのに対し、荷主は港湾選択や貨物量配分を自由に選択できない。船社が配船しない港湾を選択できないし、大量の貨物を少ない船便で輸送することもできない。もし、そうなら、船社側であっても荷主が貨物を出さない港湾には寄港できない、という反論があるかもしれない。しかし、荷主は、現実には船便サービスをみない限り、港湾選択も貨物配分もできない状況にあるのに対し、船社は、たとえ荷主が貨物を配分しなくても寄港はできる。したがって、輸送市場におけるゲームでは、オペレーターが戦略を先に選択できる「先手プレイヤー」、荷主はそれに対して最適戦略を選択する「後手のプレイヤー」であると定義できる。実際、このような状況は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災によって神戸港が壊滅した後にみられた。
このときは、近くの大阪港を利用したい荷主がたくさんいたにもかかわらず、大阪港に寄港する船社が少なく、やむなく名古屋、清水、京浜港を利用せざるを得なかった。もちろんこのような状態が長期間続けば、大阪港を寄港地とする船便を増やすような戦略に変更される可能性があるが、それとて、船社の利益最大化の目的に合致しなければ現在の配船パターンは変更されない。以上のことから、輸送市場における均衡は先手、後手の区別があるシュタッケルベルグ均衡とみなすことができる。
さて、ここで、さらに注意すべきは、政府と船社の関係である。政府は自国の経済発展を目指して