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施設整備戦略をとる(地方政府は自地域の経済発展を目指して整備戦略をとる)。その際、船社と政府との関係はやはり政府が優位に立つ。船社はある港湾に寄港したくても施設整備が十分でなければ寄港できないのに対し、政府は船社の意向とは独立して施設整備を図ることはできる。ただし、港湾施設の整備には長期を必要とし、船社と荷主の関係のように短期的に戦略を変更することはできない。したがって、政府は長期の輸送市場均衡を勘案しながら整備戦略を練る。これは図表7-11(154ページ)における長期均衡過程における先手・後手のゲームとみることができる。先手は政府であり、後手は船社および荷主である。一方、政府は港湾運営戦略をもっている。船社は港湾運営戦略に対しては、比較的短時間で反応する。したがって、この場合は短期均衡過程とみなす必要がある。

ところで、外貿貨物輸送市場では、政府間の競争、船社間の競争が当然考えられる。すなわち市場の競争形態は図表7-128に示すように政府間・船社間はもちろん政府と船社、船社と荷主といった3段階の構造での競争とシュタッケルベルグ均衡の関係を示す。この図表は、最上位に政府が存在し、輸送市場ゲームにおける最先手プレイヤーである。政府は後手プレイヤーである船社・荷主が政府の戦略に対して最適行動をとることを知っており、その情報に基づいて自身の最適戦略を決定する。一方、2番手のプレイヤーは船社であり、政府の戦略をみて自己の最適戦略を決定するが、その際、船社は自己および政府の戦略に対して荷主がどのような最適行動をとるかを知っている。最下位に位置する最後手プレイヤーは荷主である。荷主は政府・船社の戦略を情報として得た後、自身の最適戦略を決定する。このようなゲームのプレイヤー間の競争の結果、物流のフロー均衡が生まれ、船社の行動、荷主の行動が安定する。この均衡過程を短期的フロー均衡と呼ぶことは先にも述べた。短期的フロー均衡は料金などの運営戦略が支配的要因となる。

一方、フロー均衡は長期的にも変化する。長期的フロー均衡を支配するのは、社会・経済活動システムの変化(本研究では、世界の海運貨物のODパターンの変化)であり、政府の港湾整備戦略である。ここでは、この長期的均衡過程の定式化は行なわずに、シナリオとして外生的に与えることによって分析を行なう予定である。また、港湾運営戦略による政府間均衡過程も計算量の関係から明示的には扱わない。したがって、外国政府の特定時点港湾整備、さらに運営戦略および世界のOD貨物量が与件のとき日本政府がどのような戦略を採用すると、均衡フローがどのような変化を示すかを主として分析の対象とする。このときの均衡フローは、もちろん長期的にシステムが変化した場合に実現する短期的均衡フローと解釈される。

 

注8 Kuroda and Zan Yang;Stackelberg Equilibria Analysis of Container Transport Market,Journal.of EASTS,1995

 

(3) 政府・船社・荷主の行動

 

海運市場における政府・船社・荷主はそれぞれ自己の目的達成のために戦略を選択するゲームのプレイヤーとみなすことができることを前項で明らかにした。ここでは、 3者の行動目的、戦略を明らかにする。以後、本研究では、外貿貨物の輸送市場について考察するが、外貿貨物は石油・鉄鉱等を除きほとんどがコンテナ化されているので、国際コンテナ貨物輸送市場の問題として考察を進める。

 

1)政府の行動と戦略

国際海上貨物の輸送市場における政府とは、港湾施設の整備と運営を行なう主体として定義する。先にも述べたように、外貿貨物輸送市場では、港湾管理者、港運業者(荷役業者・海貨業者等を含む)、

 

 

 

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