?B港湾・経済が一体となった競争
いままで、基本的には東アジアの港湾はそれぞれ独自の背後経済目をもつもので、港湾間競争によって背後圏を崩せるものではない、と述べた。それでは、港湾間競争はどのように考えるべきであろうか? 港湾間競争とは、実は、港湾と背後経済圏とが一体となり、他の経済圏と一体化した港湾との競争であると理解するべきである。ここで、背後経済圏という場合、地場輸出と本輸入のみを取り扱う港湾の場合には、港湾背後の国内経済であり、中継輸送を伴う港湾の場合は中継輸送圏にあたる近隣諸国の経済を含んでいる。
先の港湾取扱貨物実績の推移において、ASEAN諸港湾の1980年代の伸び、シンガポール港・香港港の90年以降の伸びは背後経済圏の発展に港湾が対応した結果である。港湾の対応としては、取扱貨物量の量的対応が基本であるが、滞船などが多すぎてはならず、質的対応要件も含まれる。また、香港のように、中国の初期の工業化を背景としている場合には、クワイチュン・コンテナ・ターミナルでの取扱量増加はともかく、港湾料の安いビクトリア水面上での沖取り取扱量のおびただしい伸びも独特な経済発展の様子を反映している。経済が発展過程にあってもそれに伴う港湾整備・運営が伴わなければ、成長のボトルネックとなるはずである。逆に港湾の整備・運営が進んでいても、経済発展が他の要因で遅れれば港勢の伸びが期待できないことは改めていうまでもない。例えば、優れた立地と整備を誇る高雄港が香港港やシンガポール港のように爆発的な貨物取扱量を伸ばしていないのは、これまでの中継輸送圏のフィリピンの政情不安定などにより他のASEAN諸国ほど経済成長を遂げなかったこと、国際政治関係により中国との直行航路を設定できないなどの要因が影響している。
3)わが国の港湾運営改善の基本認識・方向
わが国の港湾整備・運営問題に取り組むにあたっても、港湾と背後圏の経済が一体となって、他の一体化した港湾・背後経済圏と競争する認識が不可欠である。日本がアジアのなかで単独に経済成長を謳歌していた頃は、外貿埠頭公団などのもと、コンテナ・ターミナルを急整備して経済成長に対応してきた。しかしながら、現在、そして今後の日本経済は先に検討したように、円高の背景もあって厳しい競争にさらされ、高度な物流需要を低費用で満たさなければならない極めて切実な状況に立たされている。それによって要求される新たな時代の港湾ニーズは、高水準・低費用の効率化された港湾および関連サービスである。こうした効率的な港湾ニーズヘの対応が十分でなければ、経済の安定や新たな方向への発展が阻害されることとなり、ひいては港湾需要が衰退し、ますます割高になる港湾運営のもとでさらなる困難が予想される。あるいは、経済がより効率的な輸送サービスを一層海外に求めて進出し、わが国の経済と港湾がともに空洞化するといった事態すら考えられる。
国際コンテナ輸送に関しては、わが国の港湾およびその関連の整備・運営の効率化へ向けて根底的な課題となるのは、港湾ニーズの新たな構造的変化に十分な対応ができないところに見出される。これは、わが国が島国であり、古くから海上輸送が重要で地域経済の発展に不可欠であるとの認識のもとで、港湾整備・運営が、まだ小さかったそれぞれの地域経済に合わせて行なわれていたのと無関係ではない。特に補完的な港湾機能確保など、そうした要因を残すべき点も少なからず見出される。一方で、国際コンテナ輸送に関して、船舶は超大型化しグローバル・アライアンスといった世界的な枠組みのなかで効率輸送され、荷主たる企業はボーダーレスな国際経済のなかで、かつてないめまぐるしく、かつ、厳しい生産競争にさらされ、広範・高度な生産・物流体系を構築してこれに対抗しようとしている。そもそも資本集約性の高い港湾にあっては、特に基幹的な国際コンテナ輸送については、こうしたダイナミックな動きをよく見据え、規模の経済性による費用低減や集中化による運航頻度な