5. わが国の港湾整備と港湾管理
(1) ネットワークとしての港湾
従来のわが国の産業・貿易構造とそれに対応した港湾整備方針のために、わが国の港湾は、バルク・カーゴの輸入と雑貨(定期船貨物)の輸出を中心にして整備されてきた。しかし、円高による貿易構造の変化のために、輸入コンテナに対応した港湾整備の必要性が高まっている。なお、緊急な問題点として、輸出に比べて輸入は細かな対応が要求され、港湾における貨物滞留時間の長さに対応した保管スペースの拡張とデバンニング施設の整備が必要になっている。
わが国の港湾整備については、国の「大交流時代を支える港湾」ビジョンや第九次港湾整備5カ年計画などにおいて、14メートル以上の大水深バース建設、輸入コンテナ・ターミナルの建設、地方港コンテナ化が推進されている。
定期船船社間のグローバル・アライアンスの形成に影響され、北米・欧州両基幹航路においては、寄港地集約化と並行した船舶大型化が進行し、アジア発北米航路と欧州航路では6,000TEU船も配船されつつある。このため、わが国の拠点港湾においても5,000TEU船が入港・接岸できる水深15メートルのコンテナ・バースと十分なスペースをもつコンテナ・ヤードなどの整備が課題となっている。これらの整備が進行中であるが、港湾計画全体やアクセス交通計画などとの整合を一層確保していく必要がある。また、船舶やターミナルの大規模化にあわせて、従来の半自動化を一層すすめたターミナルの無人化などの自動化・省力化をすすめていく必要がある。
将来の需要からみて、わが国の地方港のコンテナ施設がどのように評価されるかは、わが国の国際海運・港湾戦略による。従来の地方港整備は、中小型船用バースの整備が中心であり、各港湾の特性を反映せずにやや画一的な類似施設の整備がすすんでいるなどの問題がある。今後は、よりきめ細かな航路ネットワークを想定したうえでの投資の優先順序付けが求められる。
このような地方港湾のコンテナ施設整備の結果、ここ10年ほどの間にコンテナ取り扱いに占める地方港のシェアは高まった。航路のハブ・アンド・スポーク化の進行によって、阪神港湾などのバイパス化がすすみ、これに釜山などの近隣国拠点港湾のハブ化が拍車をかけたこと、中小型船によるアジア域内航路のネットワークが拡大したこと、掠奪的価格の恐れのある割引のケースを含め港費・荷役条件などのうえで拠点港湾に比べてメリットのある場合があることなどが考えられる。
拠点港湾と地方港湾の両方に焦点をあてた港湾ネットワーク計画が、わが国の国際物流戦略として有効かつ整合的であるか否かについて、矛盾点を抱えているとの見方も否定できない。国は、5大港以外の中核港湾に関する投資戦略について明確な戦略理念をもつ必要がある。
(2) わが国の港湾管理
現在、わが国においては、5大港中4港において、公共バースを各コンテナ船社が専用利用している。名古屋港のみがコンテナ埠頭について公社方式を採用せず、同一の公共ターミナルにおいて、利用コンテナ船社ごとにステベが交替するシステムをとっている。当該方式には問題点もあるが、必ずしも1バース1港運事業者体制に固執する必要がないことを示している。
拠点港湾が競争力を強化するためには、港湾運用上いくつかの施策が求められる。まず、基幹航路と近海航路用バースの一体整備を行なったり、外航ターミナルヘの内航フィーダー船の入港を認めたりすれば、ターミナル間での陸上輸送がなくなり、物流費の相当な低下とわが国港湾のハブ機能の強化が行なえる。外航バースヘの内航船接岸については、部分的に許容されることになったが、条件が厳しすぎてニーズにそぐわない状況にある。また、しばしば指摘されるように、ユーザーの立場から、出入港手続きの情報化と簡略化を行なう必要がある。
前述のように、港湾料金においては、たとえば係留施設使用料については8大港統一料金が設定されてきた。1997年5月からは24時間制を12時間制に改め、利用実態に即した料金体系に移行されている。地方自治体が条例によって港湾料金を決定する条例主義のフレームワークのもとでは柔軟な対応が難しいことや、それと関連しての港湾間での料金画一性の問題は依然として残されている。本来ならば、港湾管理者は料金設定の結果としての利潤を通じて稼動率の評価や投資の決定を行なうべきである。しかし、会計方法の限界もあってこのようなメカニズムが十分に機能してこなかった。また、港湾料金のある程度を占める統一料金によって、国内他港との間で料金格差が生じ競争上不利になることもなかった。このような港湾自体のコストと料金の構造は、港湾物流事業にマイナスの影響をもっており、港湾の所有・管理形態の適正化を通じて、港湾物流業の活性化が促進される余地は相当大きい。
96年の総務庁による行政監察結果においても、稼動率が低いにもかかわらず新規岸壁投資が行なわれている問題が指摘され、港湾管理者間でのコスト抑制、港湾運送業の参入規制と料金規制の緩和が勧告されている(総務庁行政監察局[1996])。