4. 港湾運送と港湾産業の課題
(1) 規制緩和と新たな事業展開
国際的趨勢として、大手総合物流企業は、荷主企業に生産から物流までを含めたシステム全体を提案し、業務委託を受けるいわゆるロジスティクス・サポートを行なっている。港湾運送事業者が、大手総合物流企業のような業務を完全にこなすことは容易ではないと考えられるが、荷主企業の特性に応じて、作業工程中の特定の段階、たとえば荷さばき分野に重点をおいたロジスティクス・サポートなどを行なう可能性があろう。また、海外での物流分野の労務管理に特化するなどの形での事業展開にも可能性があり、商社との合弁によるタイのレムチャバン港などの成功例がある。海外展開に成功することは、港運事業者にとって本業であるわが国港湾での物流サービスにもフィードバックできるノウハウを蓄積することにもなる。
しかし、海外での港湾事業進出競争のなかで、商社などの他の業態が次第に港湾業務のノウハウを蓄積していくであろうから、港運業者側が国際化への一層の積極性をみせなければ、立ち上がり期だけの1回限りの合弁事業としてしか相手にしてもらえなくなる。また、国際物流のハブとして重要な施設供給への参入のチャンスが多くありながら、他の物流業態と比較して、港運業者が港湾のターミナル・オペレーションヘ進出するケースが少ないという問題が生じている。
港湾運送事業や関連事業が規模・範囲の経済を実現し、取扱貨物量の波動への対応力を増し、荷主が求める国際ネットワークを形成していくためには、わが国の港湾は、所有・管理・運営などの縦の次元においても、同一業務組織間の横の次元においても、組織が細分化されすぎている。この点は、1997年の行政改革委員会小委員会報告も強調している。
港運業が細分化されている大きな理由は、免許制度下で緩い集約化誘導は行なっているものの、基本的に産業構造を固定化していることにある。たとえば、一般港運、港湾荷役、はじけ、海貨などの事業区分、ならびにこれらの事業区分にしたがって、各種別行為ごとに月中70%直営と規定されている下請比率規制が行なわれている。また、京浜地区のように免許上は一体化されながら港湾間で資本や労働者を移動できないケースを含め、事業が港湾・バースに固定されていることが事業展開の柔軟性を失わせている。したがって、免許規制の緩和とあわせての何らかの形態での共同化・集約化が必要となることは疑いない。
荷役作業の機械化が進行したとしても、港湾荷役作業自体がなくなるわけではない。港運の元請と専業者のうち、専業者の業務は効率性達成ののち継続されることになる。問題は、総合物流企業化しない元請業者の存在、ならびに元請・専業者間の下請関係の固定化を今後も続けていくのかどうかという点にある。元請業者の再編成を行なっていくうえで、船社系元請と荷主系元請の境界線も障害となる。
一般論としては、以下のような共同化・集約化のパターンが考えられる。すなわち、港湾運送事業者間での共同化・集約化、海運・道路貨物・鉄道・倉庫など他の物流業態とのの共同化、荷主・商社などとの間での共同化、港湾管理者との間での共同化・集約化などである。
なお、コンテナ埠頭の運営を通じて海運企業と港湾物流企業の共同化は相当進行しているが、個々のバースごとの合弁事業の形態をとるケースもあって、組織が細分化されがちである。
定期船船社間のグローバル・アライアンスによって、港湾物流企業も再編成を迫られ、ターミナル運営側の組織形態もこれに対応する必要が生じた。迫りくる再編成に応じるのみならず、港湾側も明確な意思と戦略をもつ必要がある。