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残念なことにこれらの公式調査は、調査の難しい港湾のコストを対象にしていない。コンテナの港湾コストについての調査は多数行なわれているが、第三者によるわが国の港湾コストに関する信頼できる数字は提示されていない。しかし、多くの調査に共通する結果として、わが国の港湾コストが世界一高いこと、港湾コスト中ではターミナル・コスト(荷役料金)の比率が大きく、バンニング・デバンニングのコストを加えるとコストの3/4から8割に達すること、などが確認されている。

港湾に関する政策論において、非効率による料金の高さと、他産業の生産性を反映した人件費や地価などの要素価格の高さによる料金の高さとは意味づけが全く異なる。後者の場合、港湾料金が高いからといって経済的には問題ではない。このような点が曖味にされすぎているように思われる。いずれの場合も、補助率を高めて料金を引き下げても、国民経済的には効果がマイナスとなる可能性は強い。

 

(2) 最近の政策論議

 

物流関係の様々な規制緩和策については、多くの審議会や研究会でとりまとめられ、それらは1996年春の規制緩和推進計画に関する閣議決定において集大成をみた。しかし、同年秋の経済審議会行動計画委員会物流ワーキング・グループにおいては、分野ごとの規制緩和の進捗の差異や個別テーマに関する政策の不完全さが認識された。複合一貫輸送効率化のためには、89年の貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法からなる物流二法制定以来、貨物運送取扱事業に港湾運送事業を含めることが先送りされてきたことが問題にされた。そして、港運業の規制緩和、民営化を含めた港湾管理・運営効率化、その他水先規制見直しなどのバランスのとれた港湾政策の必要が提案された。

97年4月の政府の物流ビジョンである総合物流施策大綱では、港湾関連のコストおよびサービス水準を国際的に遜色ない水準にまで高め、2001年までに輸入において入港からヤード搬出を、現状で4〜5日を要しているものを2日に短縮するとしている。政策目標としては妥当と考えられるが、そのためには現状の改革のペースを大幅に早める必要がある。

97年12月の行政改革委員会規制緩和小委員会報告は、港運業の新規参入の促進、事業規模の拡大、波動対応性と供給の柔軟性の確保のため、事業免許制を許可制にすること、料金認可制を届出制にすること、事業区分・限定制度の簡素化、港別免許制の見直しを提言している。

 

(3) 米国連邦海事委員会(FMC)提訴問題

 

事前協議制に代表されるような港運問題について当局側は、ほぼ一貫して労使慣行問題は港湾運送事業法規制という立場をとっていた。そのよい例が1996年に起こった米国連邦海事委員会(FMC)による日本政府への提訴問題である。しかし一般にいって、規制産業と非規制産業とでは経営風土も労使関係も異なり、規制と慣行とは問題の性格として切り離せない。また、競争を制限する恐れのある業界慣行の多くは、独占禁止法の適用除外が明示されていなければ同法のチェックに従うはずである。日本港湾協会(日港協)を通じた二者協議の慣行は、船社側が港湾労働者側との直接交渉を回避するために求めたものといわれるが、結果として日港協の交渉における支配力を強めることになった。

96年の2大コンテナ航路のコンソーシアム再編の過程で、外国船社は港湾利用パターンの変更を迫られたが、事前協議制があるためにわが国の港運側との調整にてこずった。そのようななかで、米国とEUから日本の港運サービスに関する質問・要望が行なわれ、再編がスタートした時点で港運事前協議に関する問題点が一気に吹きだし、米国連邦海事委員会(FMC)による日本船社3社に対する課徴金措置に至った。

 

 

 

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