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それでは、時代を支配しているとまでいわれる極東船社の環境適応力と戦略効果はどうであろうか.計測結果でみる限り、極東船社の強みは、唯一、極東発貨物に大きな支配権をもつことである。この貨物が増加する限り、その増加率を20%上まわるレベルで極東船社の積取量は増加していくことがわかる。しかし、極東船社の日本発貨物への適応力は低く、しかも複合輸送の戦略効果も米国船社や閻欧船社の半分以下のレベルにとどまっている。このような結果をみる限り、極東船社の発展の大半は地の利によって説明し尽くされるのである。

それでは、日本船社はどうであろうか。日本船社が有する、日本発貨物と極東貨物に対するバランスのとれた総合的な環境適応力は、他国・地域の船社の遠く及ばないところであり、この点は高く評価できる。これは、日本船社が一般にいわれているように国際競争力に著しく欠けているという評価とは大きく食い違う結果である。日本船社のもつ優れた環境適応力は、85年の海運集約体制の脱却以降、そのグローバル適応が著しく進んだ結果である。具体的には、資本、労働力などの要素調達や船舶の保守・維持さらには管理業務までをもグローバルにアウトソースすることを日常のこととして処理する超国家企業としての海運業の構築が進み、それがこのような優れた環境適応力として現われたものと理解できる。

しかし、日本船社にとっての問題は、複合輸送戦略が成果に対してマイナスに作用していることである。この複合輸送戦略には、海運業のマクロとミクロの戦略のみならずフォワーダーの戦略をも含んでいる。単純化してとらえれば、フォワーダーの戦略は海運業のミクロ戦略と同じ次元のものである。したがって、複合輸送戦略が日本船社の成果に対してマイナスに働く理由は、日本海運業のマクロとミクロの複合輸送戦略がお互いに足を引っ張り合っていることにあろう。この点は、両戦略に相乗的効果が認められた米国船社や西欧船社の行動とはまさに対照的である。好ましい環境適応力をもつにもかかわらず、日本船社の戦略構築のあり方には問題が残されている。

以上は、日本・極東からアメリカに向かうアジア・太平洋東航物流市場における考察である。これに対し逆のルート、すなわちアメリカから日本・極東に向かう西航物流市場での4者の行動は、どの船社についても複合輸送戦略の効果は認められなかった。

ここでいう複合輸送戦略とは、アメリカ西海岸まで陸送された貨物を獲得するほうが、日本・極東仕向けの積取量あるいは積取比率に対してプラスに作用しているのではないかとみて設定されたものである。しかし、それが戦略上は何の効果ももたらさなかったことは、アメリカからアジア向けの輸送が従来型の輸送に港湾から内陸部までの陸送部分を付加した第2タイプの複合輸送にとどまっていることを示唆するものである。それは、日本のフォワーダーのアジア向け複合輸送の特徴として図表4-7(110ページ)で見出した考察結果とも一致している。アメリカから日本・極東に至る西航物流市場においては、海運業は発生するコンテナ貨物にいかに適応するかという環境適応能力こそが戦略的意味をもっている。

海運業の展開するロジスティクス戦略対応としての複合輸送戦略は、以上の考察によって明らかなように積取量や積取比率といったサービス販売量や市場支配の程度を示す経営成果に対してプラスの効果を与えるにとどまらず、また前節(4)でみたようにサービス価格としての運賃上昇効果をももつことが明らかとなった。それは、海運業の輸送事業部門が展開する包括的なマクロ複合輸送戦略が、その物流事業部門が個々の荷主のロジスティクス戦略に対応して採用するミクロ複合輸送戦略とは根本的には対立するものではなく、両者の調和を図ることこそが喫緊の戦略課題であることを示すものである。いいかえれば、海運業のロジスティクス戦略対応こそが、物流業として荷主との長期的な共存共栄を可能にするうえで不可欠の戦略なのである。

 

注12 (財)海事産業研究所『世界の主要地域間定期船荷動き量報告―日本・極東/北米(米国)定期航路の船社グループ別・品目別・国別荷動き量』

 

 

 

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