複合輸送が実施される可能性をもつ理論的極大値である。西海岸向けの貨物のなかには複合輸送されずに西海岸で止まるコンテナ貨物もあるから、現実の複合輸送率は極大値よりも低くなる。もっとも東海岸よりRIPIによって内陸に複合輸送される貨物もあるから、実は上記の極大値からはこの分が抜けている。このように上に示した方法には幾つかの問題があるけれども、この方法は複合輸送の動向を押さえることのできる簡便な算定方法である。このようにして算定した複合輸送率を用いれば、この要因だけで対米物流に占めるフォワーダーの貨物取扱比率(図表4-6、108ページ参照、単位:%)の変化の94.5%までを決定することができる。しかも推定期間の85〜94年の10年間において、複合輸送率の1%の変化がフォワーダーの貨物取扱比率の9%もの変化を引き起こしていたのである11。対米物流では、このような方法によっても、フォワーダーが複合輸送活動の発展とともにその基盤を拡充してきた事を改めて確認できるのである。
注10 このタイプ別分類は、運輸省総務審議官監修『日本物流年鑑」、27-28ベージにしたがう。
注11 In(フォワーダー取扱比率)=-0.157+9.096In(複合輸送比率)
(12.46)a
RB2=0.945,SE=0.09,DW=2.30[1985-94]
(3) 日・米・欧・極東船社の複合輸送戦略の課題
前節の考察によって、複合輸送が対米物流においてもつ経営戦略上の意義は、フォワーダーにとって他の仕向地別物流と比較して特別のものであることが明らかになった。広くはアジア・太平洋市場全体を含んで、複合輸送においてどのような戦略上の優位を築くかが、フォワーダーの経営戦略の成果のいかんを決定する。その意味は、対米物流においては、複合輸送をめぐってフォワーダーと海運業の間に厳しい競争が展開されるであろうということである。
海運業の実施する複合輸送は、荷主のロジスティクス戦略に対する最大公約数的な受け皿である。さらにそれ以上の細かい対応をするには、海運業は個々の荷主の満足を極大にする独自の複合輸送戦略を策定する必要がある。しかし、海運業が一般的戦略に合わせて、それと対照的な個別戦略をも展開することはきわめて困難である。そのため、海運業は企業内に物流事業部門を設けて、細かいフォワーダー・サービスを提供し、個々の荷主のロジスティクス戦略に対応しようとしている。
このように海運業の複合輸送には、輸送事業部門が設定する大枠としての複合輸送に加えて、物流事業部門が荷主のロジスティクス戦略に細かく対応するフォワーダーとしての複合輸送の2種類がある。前者を海運業のマクロ複合輸送戦略と呼べば、後者はそのミクロ複合輸送戦略と位置づけられる。両者は補完し合う場合も、また競合し合う場合もある。両者が補完している時、複合輸送戦略は海運業の収益を確保する原動力となるであろう。ところが、もし両者が相容れない時、その結果が逆になることは明らかである。
以下で展開する考察は、日本・極東からアメリカに向かうアジア太平洋東航物流市場における海運業の複合輸送戦略を国際的に比較して、日本海運業の行動の限界に迫ろうとするものである。具体的には、日本・極東・アメリカおよび西欧の海運業が、市場環境要因と戦略要因の両面からどのように行動し、どのような成果をあげているのかを明らかにする。ここでいう戦略要因が、マクロとミクロの両方を合わせた広い意味の複合輸送戦略をさすことはいうまでもない。計測にあたって利用する物流データ、それを加工した複合輸送率データなどは、すべてJournal of Commerce社が調査し、財団法人海事産業研究所が報告書としてまとめている資料12に基づいている。これを利用して、日本・極東・アメリカ・西欧の4カ国・地域の海運業が1986〜95年の10年間にわたって行動した状況を考察するから、サンプル数が40のパネルデータが対象になる。