2. 国際物流業のロジスティクス戦略対応行動の比較
(1) ロジスティクス戦略対応の意義
製造業などの企業の物流を、調達・生産・販売の各部門に分散せず、ロジスティクス部門において統合して管理するという物流統合化の流れと、企業の国内物流と国際物流を分離せずに連続的に管理するという物流の国際化の流れは、経済のグローバル化に伴うボーダーレスな企業活動の展開によって、いまやとどめることができない明確な潮流を形成している。これに伴って企業のロジスティクス部門は、輸送、在庫、保管、荷役、包装などにかかわる物流を企業内全部門にわたり、しかも国内・国際の両部門で途切れることなく連続的に管理しうる国際ロジスティクス・システムの構築を目指して、トータルのロジスティクスコストを最低にし、企業収益を最大に維持しうるシステムの構築に努めている。
しかし、ほとんどすべての製品は、製造業の支配できない国際海運業の設備を利用して輸送される。いいかえると、製造業のロジスティクス部門は、システムを構築するけれども、そのシステムを動かすためのサービスはみずから生産せず、専門の国際物流業から購入するのである。ここに、国際物流業は製造業のロジスティクス戦略に対応してロジスティクス・サービスの生産・販売体制を用意せねばならない理由がある。そこで国際物流業は、このような製造業の要求に対応してコンテナ船を用いた国際複合輸送のもとで通し運送を実施することによって、国際ロジスティクス・サービスを販売してきたのである。
ちなみに国際複合輸送戦略は、第3章でみたように物的戦略(コンテナ船の導入,LCL貨物のFCL化)、場所的戦略(ハブポートとフィーダーポートのネットワーク化)および時間的戦略(定曜日サ―ビスの導入、ダブルスタックトレーンの導入、デポの拡充、超大型コンテナ船の導入)の三次元において展開をみた。しかし、この戦略は国際複合輸送の人的戦略にはいまだ及んでいない。そのために、国際複合輸送サービスは、若千のタイムラグがあるとしても、世界のあらゆるコンテナ船企業が供給可能な無差別なサービスとなっている。コンテナ船業はこれに合わせて多様な貨物追跡システムを提供したけれども、やはりサービスの差別化は図れなかった。
この間隙を突いて登場したのが、NVOCCと一般に呼ばれているフォワーダーである。彼らはむしろ製造業などの個々の荷主に適合したロジスティクス・システムの構築とそれを動かすためのロジスティクス・サービスの調達を通じて、いわば国際複合輸送の人的戦略の領域にカスタマー志向をもって参入し、まさにサービスの差別化を達成している。コンテナ船業とならんでフォワーダー業もまた国際物流業としてロジスティクス・サービスの供給者の地位を固めたのである。しかもフォワーダーは、すでに品揃えされた物的・場所的・時間的に多様なサービスをコンテナ船業から購入し、それにみずからの人的に差別化されたオーダーメイドのサービスを結合して、付加価値の高いロジスティクス・サービスを供給する点において、コンテナ船業の顧客であるとともに強い競争者でもある。
そのため、国際物流業が製造業などのロジスティクス戦略にどのように対応しているかという問題を解明するには、戦略面で一歩先を行くフォワーダー業の行動パターンのなかから基本的な原則を導き出したうえで、その原則が海運業としてのコンテナ船業によってどう生かされているのかという観点より、日本海運業の戦略課題を特定する必要があろう。そこで本節では、とりわけ日本船社のロジスティクス戦略対応の国際劣位の原因を実証的に特定し、これを受けて日本海運業が統合的な複合輪送戦略を構築する必要性を明らかにする。