TSAは限定された企業の範囲とはいえ、単に一律に生産設備を凍結するにすぎないから、それが集中度そのものの効果に影響を及ぼすとは考えてもみなかったが、計測の結果はTSAのような大規模にわたる生産の削減は、市場支配力の観点からはかえって市場に新たな混乱を生み出していることを示している。むしろ集中度と運賃水準の関係からするならば、TSAはコンテスタブル市場への復帰を促進した要因であり、このような協定を結ばなかったほうが、市場は集中度の著しい上昇を背景に運賃水準の上昇という正常な結果を生み出したであろう。
東航市場が規制緩和後において大きく混乱し続けている原因の1つに、TSA体制があるのではないかと考えられる。TSA体制を維持せねばならないと考えるところに、コンテナ船企業の市場支配力すなわち集中度に対する信念の揺らぎの原因があろう。このことが、東航市場の構造を再びコンテスタブル的様相へと転換させたのである。
2) 操業度の機能
長期の考察によって明らかになった規制緩和前の操業度の作用は、運賃を非合理的に変動させるというものであった。これは集中度の機能のところでふれたように、まさに規制緩和前の開放型同盟に向けられた批判の核心部分であった。この長期の推定結果に関する限り、集中度の面でもまた操業度の面においても、産業組織政策の立場からは、規制緩和前の開放型同盟の存続をサポートすることはできない。
規制緩和政策の実施によって、操業度の運賃水準決定機能は回復し始めた。しかし、まだその機能が十分なレベルにあるとはいえない。操業度の運賃水準弾力性の規制緩和後の値は、TSAの発足の前には、マイナスのレベル、すなわち-1.74488(=-3.20385+1.45897)にあった。規制緩和後の不況期において運賃水準を引き上げうるケースは皆無であるから、操業度の弾力性がこのようになお非合理な作用をとるケースは、好況期においても運賃水準を引き下げざるをえない状況をさしていると思われる。
TSAのもとでの体制が整い、その効果が現われた1990年第1四半期以降の時期における操業度の運賃水準への作用は、-0.10114(=-3.20385+1.45897+1.64374)であり、まさに景気中立的状況にある。このようにTSA体制は、操業度のもつ運賃水準全体への好ましくない負の影響を一掃するうえで有効であったと評価できる。
3) 両刃の剣のTSA戦略
規制緩和による正常運賃の歪みは、図表4-2における規制緩和期全体の係数の調整値に現われている。調整値は指数関数型の運賃関数を対数をとって展開したものであるから弾力性を示している。
両戦略の効果の推移を90年第1四半期〜94年第4四半期までの5年間について、図表4-3(次ページ)に示している。規制緩和政策効果とTSA戦略効果は、本来の運賃関数のなかでは、
現行運賃水準=(正常運賃水準)×(規制緩和政策効果)×(TSA戦略効果)
のように機能するから、両効果は正常運賃水準(両効果がなければ成立したとみられる運賃水準)に乗ぜられる係数(あるいは倍率)である。
これでみると、規制緩和政策によって正常運賃水準に対して0.12〜0.40倍の運賃水準変動効果(すなわち運賃水準下落効果)があることがわかる。取り上げた90年〜94年の20四半期におけるこの効果の平均値は0.234倍である。いいかえれば、もし規制緩和という政策変更がなければ、運賃水準は現実の運賃の4.27倍に上昇していたとみられるのである。