1) 集中度の機能
規制緩和前の集中度の機能は、運賃水準を不合理な方向に変化せしめていた。これは市場への参入、ひいては同盟への参入が増加するにしたがい、既存メンバーの利潤率(資本利潤率)が低下するという事態に直面した同盟が、利潤の回復を図るために運賃水準の引上げを企てることから発生する。すでにふれたように、自由参入を認める価格カルテル、すなわち開放型同盟に対する批判の核心はまさにここにあった。東航市場に関する長期の実証結果は、改めてこの市場に対する規制緩和政策の導入に対して合理的根拠を与えるものであった。
規制が緩和され、その影響が85年第2四半期に顕在化して以来、94年第4四半期に至るまでの間、集中度の運賃水準弾力性は、0.64406(=-1.31277+1.95683>0)の値を平均してとっている。この期間のいずれかの時期にこの弾力性値はゼロをとり、続いて正の弾力性値をもつ合理的市場メカニズムへと移行していったとみられる。
ところが、規制緩和政策に基づく市場の混乱を収める形で発足したTSAは、また事態をコンテスタブルな局面へと戻してしまったのである。89年3月に発足し、90年第1四半期よりその作用を有効に発揮し始めたTSAによる船腹量の10%程度レベルでの凍結は、この協定に関連する企業(市場参加企業規模の60%未満の規模)のみに及ぶものとしても、市場全体に意外な作用を及ぼしている。すなわちTSA体制発足後における集中度の運賃水準弾力性は、-0.00996(=-1.31277+1.95683-0.65402)となり、ほぼゼロに近い状況になっている。市場構造は再びコンテスタブル市場へと転換したのである。