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第4章 外航定期船市場の構造変化と物流業の経営戦略の動向調査

 

1. 外航定期船市場の構造変化と船社の経営戦略

 

1984年のアメリカ新海運法が成立してすでに14年目に入っている。この間に形成された規制緩和の潮流は、アジア市場の急激な成長を背景に、アジア・太平洋市場におけるコンテナ船業の生存競争に拍車をかけることになった。とりわけアジアからアメリカに向かう東航市場では、85年末頃よリコンテスタブル市場の様相が強まるとともに、集中度を背景にした海運同盟の市場支配力は著しく低下した。

一方、海運同盟は1985年には極東と北米間の広域をカバーするANERA(東航)とTWRA(西航)へと姿を変えたけれども、かつてのような市場のリーダーとしての面影はない。その後89年3月に東航の同盟・盟外13船社は、太平洋航路安定化協定(TSA)を発効させた。TSAはメンバーの船腹スペースの約10%を凍結することを内容とする需給調整目的をもったカルテルであるとはいえ、そのカバーする範囲は航路市場に関係する全船腹スペースの50〜60%の範囲にとどまっている。本節では、規制緩和政策のもとで展開されたTSA戦略が市場にどのような効果を生んでいるのかを実証的に分析することによって、コンテナ船業のロジスティクス戦略構築のあり方を展望する。

 

(1) 海運同盟のパラダイム転換―コンテスタブル市場コンセプトの確立―

 

極東・日本とアメリカ大陸を結ぶ、アジア・太平洋物流市場は、1984年に施行されたアメリカ新海運法の影響のもとで次第にコンテスタブルな様相を強めていくこととなった。ここでは、この点に関する初期の実証結果をベースにコンテスタブル市場出現の原因とプロセスを明らかにしよう1

 

注1 宮下國生『日本の国際物流システム』、92-98ベージ。

 

コンテスタブル市場の理論は、次の4つの条件が存在することを仮定してきた2

?@参入が完全に自由であること。

?A撤退にコストがかからないこと(サンク・コストがゼロであること)。

?B潜在的参入者が既存の生産技術や市場需要を自由に利用できること。

?C参入者は既存の市場メンバーによる報復的な価格決定の脅威をこうむらないため、参入によって得られるであろう利潤を参入に先立って評価できること。

 

注2 Baumol, W.J., Panzar,J.C. and Willing,R.D.,Contestable Markets and the Theory of Industry Structure, Harcourt Brace Jovanovich, 1982.またBaumol, W.J., “Contestable Markets:An Uprising in the Theory of Industry Structure”,American Economic Review, Vol.72, No.1,1982。

 

 

 

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