5. 阪神地区の拠点港湾の対応
従来より港湾は輸出貨物の積出し地および輸入貨物の陸揚げ地とはみられてはいたけれども、そこには国際物流と国内物流の結節点としての機能は認められていなかったのである。そのため港湾はたとえそれが国際港であっても国内産業に属するものであると位置づけられ、その結果必然的に国家の経済的規制のもとにおかれてきた。そのため港湾はいま、規制緩和政策のもとで国際産業へ脱皮することを強く迫られている。
本章ですでに概観したように、製造業のロジスティクス戦略の構築と物流業へのこの戦略への対応は、グローバルな観点に立ち、ほぼ軌を一にして進められている。各国の港湾はこのロジスティクス戦略対応を目指して、国際物流と国内物流のノード(結節点)としてのあるべき姿を描きつつ、激しい国際競争に突入している。そこに流れるのは、港湾の直接的カスタマーとしての船社および間接的カスタマーとしての荷主の要求をいかに満足させるべきかというユーザーサイドに立った取り組みである。港湾は、ユーザーに対してサービス可能性やインフラを分配する時代から転じて、ロジスティクス戦略対応の程度にしたがってユーザーによって選択される時代に直面している。
では、阪神地区の拠点港湾である神戸港と大阪港には、どのようなロジスティクス戦略対応が求められるのであろうか。また、現状はどのようにとらえたらよいのであろうか。本節では、この問題を対アジア物流との関係において考察しよう。
すでに、図表3-2(78ページ)を中心に神戸港をベースとする日本の対アジア9カ国・地域の1986〜95年にわたる輸出物流が、日本の対アジア各国向け直接投資、アジア各国の経済成長、為替相場率、コンテナ化率、および神戸の港湾物流集中度によって説明されることを明らかにした。それによると、神戸港の対アジア輸出物流拠点としての特徴は、?@アジアの経済成長が最も重要な物流喚起要因であり、それに次いで?Aコンテナ化率でとらえた港湾サービス要因が説明力をもち、?B為替相場の変動の輸出物流への作用がアジアの全地域に及ぶものではなく、ASEAN地域に独特な要因として受けとめられることにあった。
図表3-11は、図表3-2より、神戸港の輸出相手国・地域として、韓国・台湾・シンガポール・中国・タイの5カ国の計測結果を取り上げて再掲するとともに、同時に大阪港の同様の状況を新たに組み込んで表示している16。これによって大阪港の現状を分析すると、神戸港に比ベアジア各国の経済成長要因の作用は約1/2で、コンテナ化率の作用は約2/7である。対アジア各国向け直接投資については、弾力性の値は神戸港を上まわっているが、この値の信頼性は低い。総合的にみると、輸出物流拠点としての大阪港の地位は神戸港にかなり劣るという結果が得られる。
注16 大阪港の対アジア物流データは大阪市港湾局『港勢一斑』(各年版)による。
しかしながら、大阪港の港湾物流集中度の輸出物流への作用は-2.171であり、これは神戸港の8大港に占める輸出物流の割合が例えば1%減少すると、逆に大阪港の対アジア輸出物流が2.171%だけ増加することを意味している。神戸港のケースはこれとは逆に、神戸港の8大港に占める輸出物流の割合の1%の減少が、神戸港の対アジア輸出物流を1.302%減少させていた。したがって、大阪港の対アジア物流拠点としての機能基盤は神戸港に比べてかなり劣ることは事実ではあるけれども、輸出港としての両港はかなりのレベルで競合している。
一方、アジアからの輸入物流について神戸港と大阪港の現状を、それぞれ5カ国との関係においてとらえた図表3-12(94ページ)をみると、神戸港のコンテナ化率の作用が輸出のケースと比べて