このような問題はあるけれども、ここで1996年版『通商白書』に掲載された日米の海外現地法人の従業員1人当たり売上高と税引後利益率の比較データを取り上げよう。ここでは、売上高と利益率について91〜93年平均値が用いられている15(図表3-10)。
まず両国の海外現地法人の従業員1人当たりの売上高を比較すれば、両者の間にはほとんど差がないという結果が示されている。たしかに全地域を平均すると、アメリカの海外現地法人の1人当たり売上高のほうが日本のレベルよりもわずかに高いけれども、調査された10カ国・地域(日本・アメリカ・EU12カ国・オセアニア・NIES・中東・ASEAN4カ国・中南米・アフリカおよび中国)のなかには、日本の海外現地法人のほうが高い値を示すEU12カ国・オセアニア・中東地区があり、また中国・NIES・中南米地域では日米のレベルに全く差はみられないのである。
ところが、利益率の面では日米の海外現地法人の間には顕著な差が存在し、アメリカのほうが全地域平均で2.5%程度の利益率幅をつけてリードしている。とりわけASEAN・中国・NIESに設立された現地法人の利益率比較では、アメリカの海外現地法人が5%を上まわる差をつけて優位を示している。
中東地域を除き、その他の地域においても明確な利益率格差がある。
すでにみたように、日米の海外現地法人の従業員1人当たりの売上高のレベルには差がないにもかかわらず、売上高税引後利益率にはこのように頭著な差が存在する。両国の海外現地法人に対して、各国の税制は差別なく適用されるとすれば、生産と調達のコスト差こそが利益率の差を生ぜじめる原因であろう。さらにこの生産と調達のコスト差は、日米のロジスティクス戦略レベルの差に基づくものであろう。すなわち日本企業の多くは図表3-6(85ページ)における第2世代のロジスティクスのフェーズにとどまるのに対し、米国企業の多くはすでに第3世代ロジスティクスに向かい、サプライチェーンをベースとするシステムコストの節約に向かっているとみられるのである。日本の海外現地法人のグローバルロジスティクス活動は、ロジスティクスの次世代フェーズに向かって新たなシステム構築を迫られているといえよう。
注15 通産省編『通商白書平成8年度版』(総編)、229ページ、第2-4-5図参照。