以下においては、弾力性概念を多用している。いまYがXによって決定されるとし、そこにY=f(X)の関係が成立しているとしよう。そのとき、説明変数Xの1%の変化の結果、被説明変数Yがa%変化するならば、「YのX弾力性はaである」という。
図表3-2を全体的にみると、神戸港の輸出物流を支える最も重要な要因はアジア各国の経済成長であり、次いで神戸港のコンテナ化率の進展である。したがって神戸港の発展が経済的要因と海運・港湾要因によってバランスよく支えられているということは事実である。しかし神戸の港湾物流集中度弾力性が1.302というプラスで大きな値を示している点に実は問題が隠されている。港湾物流集中度は神戸に関しては減少傾向にあるため、その1%の減少が神戸港の対アジア輸出物流を1.3%減少させるからである。神戸港においては穏やかならざる事態が対アジア物流において生じつつあることを認識すべきであろう。
ところで図表3-2において、為替相場率が輸出物流にどのように作用するのかについてふれておきたい。ここで支配的とみられる関係は弾力性でみて0.196、すなわち為替相場率が1%変化しても、その物流への影響は約0.2%程度にとどまるというものである。為替相場が神戸をベースとする日本の輸出物流に及ぼす影響力は対アジア直接投資やアジアの経済成長の作用に比べて相対的に低いレベルにとどまるというのが基本的な関係である。ところがタイへの輸出に注目すると為替相場率弾力性は1.951の特異値をとっている。例えばタイとの関係で為替相場率が円安の方向に1%振れると日本の輸出物流は約2%増加する。しかし逆に1997年に発生したように、タイパーツの切下げによって円高に振れると、日本の輸出物流は神戸を基点にして約2%減少するのである。タイへの輸出物流では他の諸国・地域への物流とは異なって、直接投資の影響は極端に小さいため、為替相場率の作用が決定的な影響をもたらすことになる。
しかし、注意しなければならないのは、このような為替相場の作用がアジアの他の諸国への輸出物流に波及していくかというとそうではないということである。例えばシンガポールやマレーシアは為替相場率弾力性は低く、かつその影響を逆にはねのける力をもっている。台湾の為替相場弾力性は若千高いけれども非弾力的レベルにあり、その他の香港・中国・フィリピン・インドネシアの弾力性も韓国と同じレベルにとどまっているのである。
為替相場率以外の要因では、直接投資要因がインドネシアに対して、またアジアの経済成長要因が中国とフィリピンに対して、平均レベルを若千超える作用を輸出物流に与えている。日本の直接投資が減少したり、アジアの経済成長が鈍化すれば、これらの諸国への輸出物流は平均を上まわって減少するであろう。
総じていえば、直接投資、経済成長、為替相場率は、アジア経済の停滞に伴ってASEAN諸国に厳しい対応を迫るけれども、アジアとの関係はもっと中長期的な展望をもってとらえる必要がある。特に為替相場率の変動という短期的要因の動きに惑わされない対応が肝要であることを、図表3-2の分析結果は強く示唆しているといえよう。