2. 日本の海外現地法人の活動の評価
(1) 業種別利益率の地域間接近の原因
図表3-3は、日本の海外現地法人の業種別利益率(売上高経常利益率)の推移を示している。これは通産省が毎年実施しているアンケート調査結果5に基づくデータを、自動車・電機・繊維の3業種について整理したものである。このなかで自動車と電機の利益率の推移をみると、?@1992年に利益率が地域間で最も乖離していたのが、94年には次第にその乖離幅が縮小していること、および?Aヨーロッパやアメリカに設立した現地法人の利益率が低下した時には、アジアに設立した現地法人の利益率が上昇するというように、アジア現地法人が日本の海外現地法人全体の利益率のバッファーとして機能していることの2点を両業種にほぼ共通する特徴として指摘することができる。
このうち?Aの特徴に関しては、例えば日本の親会社からアメリカ現地法人への輸出のなかには、実はアジア現地法人からアメリカ現地法人への三国間貿易の技術的操作によって支えられている部分が含まれるため、これがバッファー機能としての一定の役割を果たしているかもしれない。いわゆる地域現地法人を含む利益の付け換えである。このような操作がたとえあったとしても、結果として?@に掲げたような利益率の収斂傾向が発生したのは、より根本的な世界共通要因が作用したからである。まさにその要因こそは、グローバルな視点からの企業の調達・生産・販売にかかわる資材や物流の管理を情報システムによって統合しようとするロジスティクス活動(図表3-5、85ページ参照)が軌道に乗り始めたという事実にある。
このような自動車と電機の両業種にみられる共通した特徴に対し、繊維業の地域間利益率は、図表3-3によると、92年には逆に地域間で最も縮小するなど全く異なる様相を示している。さらに、自動車と電機ではNIES現地法人とASEAN現地法人の利益率が上位を占めていたけれども、繊維ではヨーロッパ現地法人の利益率がASEAN現地法人と対抗する形で上位で推移している。繊維の場合には他の業種とは異なって、アジア現地法人とヨーロッパ現地法人がそれぞれアイデンティティある競争を展開しているとみてよいであろう。このように業種別にみると、自動車と電機のグループと繊維の間には大きな差が存在していることがわかる。
注5 通産省産業政策局編『我が国企業の海外事業活動』および『海外投資統計総覧』。ここにある日本の海外現地法人とは、日本企業が海外に設立した子会社と孫会社、いわゆる海外子会社と海外孫会社の総称である。なお、海外子会社とは、日本側出資比率が10%以上の外国法人をさし、海外孫会社とは、日本側出資比率50%超の海外子会社が50%超の出資を行なっている外国法人をさしている。
(2) 業種別調達・販売活動の地域優位性
売上高経常利益率が業種別に異なる状況(図表3-3)は何によってもたらされたのであろうか。その原因が現地法人のロジスティクス活動、とりわけ資材調達計画の立案と製品の販売量の予測活動にあるとすれば、その結果として実現された調達量や販売量が利益率にどのように作用しているのかをみたのが図表3-4(82ページ)である6。ここでは調達・販売活動によって代表されるロジスティクス活動を、売上高・仕入比率、すなわち販売量を調達量で割った値でとらえ、この要因によって売上高経常利益率(経常利益/売上高)の変化をどれだけ説明されるのかを弾力性で表示している。この弾力性の値は、ロジスティクス活動が利益率の向上に寄与する程度が強いほど大きな値をとることになる。
注6 データソースは注5に同じ。