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しかし、右肩上がりの成長を続けてきたアパレル業界もバブルの崩壊とともに、これまでの経営戦略や販売先との関係を見直さぎるをえない状況におかれている。作れば売れるという「プロダクト・アウト」の発想での物作りの時代は終わり、消費者動向を的確にとらえ、いかに商品に反映させるかという「マーケット・イン」の発想での物作りが、アパレルメーカーに求められるようになっている。そこで、注目されているのが“SPA”業態である。

“SPA”とは製造小売業の略称で、自己のリスクで企画・生産・販売を一体化して行なう業態である。消費者情報を直ちに入手できることや、ブランドイメージが確立しやすいなどのメリットがある点に特色がある。卸売専業の大手アパレルメーカーのなかにも、一部のブランドを“SPA”業態で展開しはじめているメーカーがあり、今後同様の動きは、消費者動向が多様化するなかで、一層拡大するものと予想される。

 

(3) 繊維産業のグローバル展開

 

1) クイック・レスポンス体制構築への取り組み

わが国の1995年における衣料品の輸入比率は6割を超えており、今後もこれまでのような勢いはなくなるものの、衣料品輸入は増加すると予想される。輸入が完全に供給体制にビルトインされるなかで、日本の繊維産業が生き残っていくための一方策として、クイック・レスポンス体制の構築が必要とされている。

クイック・レスポンス体制の構築とは、情報ネットワークを軸として繊維産業内の製造業者と流通業者がパートナーシップを確立することにより、リードタイムの短縮と在庫の削減を図る体制を作ることを意味する。現在、「新繊維ビジョン」を受けて、クイック・レスポンス体制構築を推進するための協議会が設立され、情報ネットワーク確立のための基盤整備が行なわれている。

具体的には、アパレルメーカーを例にとると、一部のブランドではあるが、アパレルメーカー・縫製工場・売り場を情報ネットワークで結び、売れ筋情報を入手し、追加生産を行なうことで、生産・販売効率を高める動きがみられる。

衣料品輸入の増加が避けられないなかで、輸入品との差別化を図り、国内繊維産業の基盤を確固たるものにしていくためには、クイック・レスポンス体制の構築は避けて通れない課題である。今後は川上・川中・川下の各段階の枠を超えたパートナーシップの確立が必要となる。

 

2) さらなるグローバル化の進展

日本の繊維産業は、国内事業においては成熟産業として位置づけられるが、グローバル市場に目を向ければ、需要は成長を続けており、マーケット開拓の余地は大きい。以下、合繊メーカー、アパレルメーカーについて、今後の繊維産業における成長のポイントであるグローバル展開の展望を述べる。

?@新たな段階を迎える合繊メーカーのグローバル展開

合繊メーカーの海外展開の歴史は古く、60年代から70年代初めにかけて最初のピークを迎えた。その後、第一次石油危機を契機に、国内の繊維事業の縮小とともに海外拠点を整理、撤退する動きが目立ったが、85年の円高以降、東南アジアを中心とする海外進出が再び活発になってきている。合繊メーカーは、日本産業の海外展開をみるうえでも先駆者的役割を果たしており、現在多くの産業が海外展開を強化するなかにおいても、その先行事例として注目を集めている。

同時に、とくに東南アジア地域において、日本メーカーが合繊産業発展の担い手として果たした役割は大きい。もっとも、今後も同地域はグローバル展開を発展させるうえで重要な拠点であるが、同地域の生産能力に占める日本メーカーのシェアは、韓国・台湾・ローカルメーカーの成長に伴い、急速に低下しつつある。

日本メーカーは高付加価値分野において圧倒的優位にあるものの、この分野の需要はアジア市場ではまだ少ないことから、「量」が確保できる汎用品分野の競争力強化が必要になっている。しかし、この汎用品分野は、韓国・台湾メーカーが規模において圧倒的優位にあり、日本の合繊メーカーは太刀打ちできない状況にある。

今後、日本の合繊メーカーが汎用品分野で競争力を高めていくためには、コスト低減技術の導入、拠点間のオペレーションの効率化が急務となる。さらに、量的規模を韓国・台湾メーカーに近づけることも必要となっており、各メーカーは既存拠点の拡充や中国での生産本格化などを推進しつつ、こうした課題に取り組んでいくこととなろう。

?A日本発ブランドの発信で国際化をめざすアパレルメーカー

バブル崩壊後、消費者の価格と品質のバランスを重視する消費行動により、再び海外ブランドが脚光を浴びている。今回のブランドブームの特徴は、高級品にとどまらず、カジュアル化の流れも加わり、定番品分野までブランドが乱立している点である。日本のアパレルメーカーも海外ブランドとの提携や新ブランドの発信により、この動きに対応している。アパレル業界はこれまで幾度となくブランドブームを経験しているが、これほど定番品から高級品に至るまでの広範囲にブランドが導入された例はないであろう。

これまで日本市場は、多数のブランドを受け入れてきたものの、逆に日本メーカーが海外に向けて独自ブランドを発信したことはほとんどなかった。しかし、ようやく日本発国際ブランド発信の動きが生産体制のグローバル化ともあいまって、徐々に拡大しつつある。日本のアパレルメーカーの国際化がソフト面でも始まろうとしている。

日本のアパレルメーカーの海外でのブランド展開は、現地ブランドとの競合、販路の確保、サイズ展開、商習慣の違いなど課題は多いが、国内市場の大幅な成長が見込めない以上、当然の動きであろう。日本のアパレルメーカーの高度な縫製技術は世界の知るところだが、海外ブランドが日本市場に定着しているのと同様に日本ブランドが海外市場で支持されるかどうかが、日本メーカーの総合力を試すうえでもっとも重要な課題である。

 

 

 

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