5. まとめ:阪神間の荷主企業からみた港湾整備の課題
(1) 港湾管理・運営の課題
阪神間の荷主企業からみた荷主側の要望・課題としては、次の3点に集約することができる。
第1に、港湾諸料金の低減である。地方港が外貿航路を誘致し、台湾などへの直接航路もできているため、神戸港・大阪港はじめ国内主要港の相対的な港湾料金が高くなっている。ただし、荷主が払うべき利用料金のうち、岸壁使用料の割合は大きくない。民間の料金、荷役料や倉庫保管料(輸入の場合)は、地方港では政策的に低く抑えられている分、主要港が相対的に高い。
第2に、24時間・日曜荷役の継続である。阪神・淡路大震災後、1995年4月から97年5月まで緊急的に24時間,日曜荷役を実施していた。現在も、日曜荷役は継続しているし、早朝を除く夜間荷役も実施されてはいる。しかし、いわゆる6大港は労使間の協定により制約を受けるが、地方港でそのような規制はない。港湾の国際競争力向上には必須である24時間・日曜荷役を明確に打ち出す必要がある。
第3に、手続きの簡素化・EDIの普及である。世界標準のEDI導入は急務であり、わが国でも現在、入出港手続き、通関手続きの電子化を進めているところである。この取り組みと並行して、手続きそのものの簡素化、さらには今後、国際的な変化に柔軟に対応できる所管行政官庁の見直しも検討すべきである。
このほか、内航海運の利便性の向上、輸入対応型機能導入などの課題も存在する。たとえば、神戸港は他の5大港と異なり、内航のフィーダー船は特定のバースに着けて、そこから外貿船のバースまでトラックで運ぶことになっているため、その分のコスト・時間が余分にかかる。内航海運および港湾荷役関連の規制緩和、商慣習の見直しなどを通じて問題が解消されるものと考える。また、輸入対応型機能の導入については、増加傾向にある輸入に対応するため、倉庫や加工倉庫のスペース確保・整備を行なう必要がある。ただし、輸入貨物は消費地へ直接ドレージしているものが多いという現状では、港湾での機能拡充を重点的に行なうべきであると断定できない。
(2) ユーザーニーズ最優先の新たな港湾整備
大阪港や神戸港はじめ主要港が港湾施設の整備に積極的な取り組みを続ける一方、近年、地方港もコンテナ港湾・物流施設の整備にかなり力が入っている。地方における経済活性化を図るという意味では、過去の地方行政では、「一村一品」の村おこし運動が展開されたし、地方空港の国際空港化がブームとなったこともあった。
たしかに地方都市は個性化の時代を迎えている。しかし、皆が同様に港湾整備を通じてボーダーレス時代の国際化をめざして進むと、「一県一コンテナ港」運動の様相を呈してしまいかねない。
また、震災からの完全復旧を宣言した神戸港でも、現在、計画している新たな港湾施設の整備が将来、過剰投資になる危険性が指摘されている12。そうした状況を回避するために、広域的に連携した整備手法の確立が望まれるところである。
具体的な議論は他の章へ譲るとするが、個人の資力で自家を所有するときに無理な返済計画を立てないように、一般的な判断基準で港湾ニーズの適否を判断することが、将来、地方港整備への禍根を残さないことにつながると考えられる。
地方公共団体も私企業感覚で運営される時代に入っているのである13。それらをシステムとして制御する手法は、イギリスのサッチャー元首相のもとで成功した港湾民営化であり、世界の港湾で広く導入されているポートオーソリティによる港湾開発運営体制の導入にその範を求めることができる。そのシステムの要諦は、市場原理に基づく自己責任原則の確立にある。
現在、地方港を含むわが国港湾が今までの港湾開発運営体制からこうしたシステムヘ脱皮できるかどうか、大きな岐路に立たされている。グローバルな企業活動を支える港湾物流インフラの新たなシステムの確立が望まれているといえよう。
注12 日本開発銀行大阪支店『神戸港復興の観点から見たわが国港湾の課題と展望』では、国際的な港湾間競争のなかでの港湾振興を考えていくうえで、神戸港を検討のそ上にのぼし、「ハード」「ソフト」「コスト」のそれぞれの側面から要因分析を行ない、今後の港湾整備・運営のあり方に一石を投じている。
注13 運輸省港湾局編『大交流時代を支える港湾』では、運輸省港湾局が地方における外貿コンテナターミナル整備の経済効果を示しているが、前提においた条件が非現実的であること、費用そのものをまかなう財源が経済効果から直接補われるものではないことなど、これだけでは地方港整備の根拠とはいえないとしている。