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こうした中小零細企業が多く存在することに関連して、日本の繊維産業の特徴として賃加工形態がとられていることがあげられる。具体的には、織布業の場合、その規模が零細であることから、資金力、人材などの面から糸の購入、生地の販売などを自ら手掛けることができず、合繊メーカーに依存してきたという歴史的経緯がある。縫製業については、そもそもアパレルメーカーが自社工場を所有し維製を行なっていたが、規模の拡大、品種の多様化、労働コスト上昇の問題から自社縫製の割合を少なくし、外部の縫製メーカーを協力工場としてグループ化し、賃加工の形態で縫製を委託することになったのである。

また、繊維産業は生活に密着した産業であるため、全国ほとんどの都道府県に分布している。ただし、織布などの川中段階ではその歴史的な背景から特定の地域に集中し、たとえば京都の西陣の絹織物や北陸の合繊織物というように、いわゆる産地を形成してきた。産地においては、各部門が専門化、分業化されて熟練度の高い生産・加工が行なわれている。このような産地は、地域経済のなかでも重要な地位を占めていることが多い。

 

2) 最近の繊維産業の動向

繊維の種類は、綿・毛・麻といった天然繊維とレーヨン・キュプラといった再生繊維、ナイロン・ポリエステル・アクリルといった合成繊維に分けられる。1995年のわが国繊維生産をみると、合成繊維糸が96万トン、綿糸・毛糸など天然繊維が29万3,000トン、再生・半合成繊維糸が12万9,000トンとなっており、合成繊維糸が全繊維生産量の約70%を占めその比率は徐々に高まってきている。

ここでは、繊維産業を構成するメーカーのうち、川上では代表的な合繊メーカー、川下ではアパレルメーカーについて取り上げる。

?@グローバル展開を進める合繊メーカー

足元の合織内需の推移をみると、内需は90年度をピークに減少傾向にあり、95年度は対90年度比約13%減となった。この背景には織物段階における国際競争力の低下があり、今後合繊内需は構造的に縮小していくと考えられる。しかし、世界的な合織需要はポリエステルを中心に今後も拡大していくことは確実なことから、合繊メーカーは国内に技術開発等の軸足を置きつつも、成長が期待されるアジア地域での事業展開を活発化させている。

主要合繊メーカーは、主としてポリエステル長・短繊維分野において、タイ、インドネシア、マレーシアに生産拠点を確保し、欧米向け輸出および進出先の内需に対応している。さらにメーカー間で程度の差はあるものの、国内外の生産設備・市場を一体としてとらえ、収益性を追求するグローバルオペレーション体制の構築が進展しており、海外市場だけでなく日本市場も視野に入れた事業展開も検討されている。

生産体制や市場がグローバル化するなかで、ユーザーにとって最適な商品を供給するためには、グローバルオペレーションの完成度を高めることが重要である。今後は新たに中国の生産拠点も加わり、さらなるグローバルオペレーションの進展が予想される。

?A注目浴びる“SPA”業態

日本のアパレルメーカーは戦後の消費者の所得水準向上を背景に急成長してきた。衣料品は非常に多品種でありロットも小さい。さらに流行の変化が激しく商品のライフサイクルが極端に短いため、需要の予測が非常に難しい。こうした市場の特性を踏まえ、わが国のアパレルメーカーは、企画や販売だけを自社で行ない、製造部門の下請の縫製工場に任せる経営戦略をとると同時に、小売店からの返品を認めるという特殊な制度を取り入れつつ業容を拡大してきた。

 

 

 

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