同様に、日本企業はサプライチェーンマネジメントで伝統的なチャネルパワーを重視していることが示されている。「戦略的提携はそのなかでもっともパワーのある企業によって支配されやすい」、「効果的な戦略的提携は書面による契約または同意によって支持されるべきである」とする質問に対して、もっとも日本企業が「そのとおり」と同意する比率が高い。Morashらは、この傾向と日本の系列との関連に言及しているが、日本における戦略的提携の多くが伝統的な系列から離れ、大手小売企業の新たなバイイングパワーを背景にしていることを考えれば、疑問視される面もある。
日本企業はまた、従業員の会社に対する忠実度、企業の従業員に対する忠実度の両面で、他国を上回っているとされる。
?Bサプライチェーンの組織間統合:相互関係
組織間統合のうち相互関係は、他の組織、すなわち顧客、輸送業者、納入業者との調整をどのようにとらえているかにかかわっている。これらの項目については、アメリカとオーストラリアで重視する比率が高く、日本はやや低い結果となっている。
まず、顧客との関係では、配送・ロジスティクス責任者などの顧客への訪間頻度などをみると、アメリカとオーストラリアはもっとも重視しており、日本も重視しているものの両国ほど重視していない。納入業者との関係についても同様な傾向がみられる。また、戦略的提携をサプライチェーン統合のために利用するかどうかについては、同様にアメリカとオーストラリアで利用すると答える企業の比率が高く、日本と韓国は低い。
?Cサプライチェーン統合で重要視される能力
以上の4カ国比較調査に加え、さらに日米80社を対象に、サプライチェーン統合で重視される能力に絞った集中的調査を行なっている。その結果、日米ともに、顧客サービス、輸送・ロジスティクスの信頼性を重視していることが示された。とくに日本では、低コスト、情報システム支援、JIT配送、輸送・ロジスティクス過程における標準化、時間短縮を重視している。
?D日本企業の特徴
Morashらの調査では、日本企業の特徴としてサプライチェーンの組織間統合でオペレーショナルな計画などを重視することが示された。日本では、組織間統合において実行計画や物理的なプロセス改善が重視され、伝統的なチャネルパワーを重視するとされる。日本企業はまた、従業員の会社に対する忠実度、企業の従業員に対する忠実度の両面で優れており、この面での優位性が示されている。
このようなオペレーショナル指向は、サプライチェーン統合で重視される能力についても反映されており、とくに低コスト、情報システム支援、JIT配送、輸送・ロジスティクス過程における標準化、時間短縮が重視されることが示されている。
以上の日本企業の特徴は、サプライチェーンマネジメントの概念の浸透度を考慮する必要がある。日本では、サプライチェーンマネジメントの概念は、1990年代に入ってからようやく広まってきた。サプライチェーンマネジメントが具体化したのは、バブル崩壊後の市場競争のなかで価格破壊が始まってからであった。その頃から、大手スーパーとメーカーとの間で製販同盟が始まり、繊維業界ではQRシステムが本格化し、加工食品業界などでECRが始まった。一方、アメリカにおいては、すでにこの段階で製販統合、QR、ECRなどのサプライチェーンマネジメントは多くの企業間で導入されており、日本企業はこれらの先行例に着目して概念を輸入した面がある。