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第8章 わが国の港湾財政に関する問題点の検討

成田 英子

本章では、港湾管理者の港湾事業会計のしくみを点検し、港湾建設の意思決定に影響を及ぼしている制度的な要因を整理する。また、地方公共団体が税負担に対して効果的な港湾整備を実現するために必要とされる財政的環境について検討する。

第2節において、わが国の港湾整備特別会計の概略と制度的な問題点を述べたあとで、第3節では港湾事業会計の収支に注目して、いわゆる「欠損」が地方公営企業としての港湾事業や港湾管理者の財政に与える影響、および「欠損」が補填されるメカニズムについて解説する。

第4節では、地方公共団体が税金を投入して港湾建設や運営を行なう場合に、機会費用としての税金が効果的に使われ、地域に経済的な便益をもたらしているのかどうかを事後的に検証する必要があることを論じる。

第5節では、地方公共団体の全般的な財政状況に視点を移し、地域間での行政サービスの受益と税負担の不一致を解消する手段として注目されている地方分権の考え方を解説する。今後、地方分権が進めば、社会資本整備の資金調達、建設、運営について地方公共団体の政策決定の自由が増すものと予想できる。一方で、社会政策としての役割が強い従来の公共事業のあり方が問い直され、プロジェクトの費用対効果が審査されることにより、地方の社会資本整備のための財源確保はいっそう厳しくなる。また、港湾を含めた生産活動の基盤をなす社会資本サービスヘの効果的な投資が地域活性化の戦略となりうることを論じる。

第6節では、アメリカの州・地方政府で運用されているレベニューボンド制度を紹介し、起債による民間部門からの資金調達の長所と短所を整理する。将来的に、わが国の公的企業のなかで起債して金融市場で自由に資金調達できるものは、採算性が客観的に評価できる事業に限られるであろう。そこで、第7節では地方公営企業の財政的な自律性を高めるために、日本型のレベニューボンド制度の導入により民間資金を導入し、地域戦略として港湾事業を活用する方策を提案する。

 

 

 

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