るがゆえに偽造・模造されることは不可能である。具体的には、大きな特徴として次の3つのことが挙げられる。
1. 眼底網膜を視力を失うことなしに手術で変えることができないこと
2. 内部組織であるために、外部環境から孤立していて、また保護されていること
3. 光に対して反応を示すことから、人工的なものを見破ることができること
従って、個人識別の手段としては有力なものであり、放射性物質の保管、高度機密文書の保管、大規模情報処理システムの運用など、極めて高度なセキュリティを必要とするニーズには打ってつけである。
一方、網膜像を撮影するのではなく、網膜上を光学的に走査することにより網膜上の血管配置情報を得て個人識別する装置が市販されている。それはLEDを光源として細い赤外光で眼底を走査する。画像情報ではなく、波形情報の整合のために扱うべき情報が少なく、効率的な識別を実現している。
しかし、安定な識別を実現するためには網膜上を走査する際にいつも同じ領域を再現性よく走査しなければならない。そこで、装置をのぞき込んだ際に眼球が決められた姿勢がとれるように視野内に表示されるガイドマークにしたがって調節ができるように工夫がなされている。
(4) 掌 形
SRIの、人差し指、中指、薬指、小指の4本の指の長さを特徴量とした実験に基づく商品が、Stella system社のIdentimatであり、日本でも数十台が輸入され、実験に使われてきた。その用途は、コンピュータ室や原子力施設など、高度なセキュリティが必要な部署へのアクセスコントロール用である。
しかし、実用上の問題点も無視しえない。掌の置き方が一定しないと、指の長さの測定誤差の要因となる。一方、置き方が一定になるように制約を加えると、利用者にかなりの精神的圧迫感を与えることになり利用しにくいシステムとなってしまう。また、指がまっすぐに伸びない人への対策など、思わぬ難問が潜んでいる。また、掌を置くパネルに対する不潔感を感じさせないようにする衛生面への配慮など、被計測者への配慮が重要である。