これらの情報技術を各企業、産業分野に適用する試みは、先述した「各産業の情報化動向」で述べたとおりである。産業全体で情報技術を利用するケースの特徴を整理すると、第一は「電子データ交換」の積極活用である。各業界で見られるようにデータ交換を行うためのプロトコルを標準化し、各種の商取引や技術情報の交換を実施している。またインターネットに代表されるオープンなネットワークを活用し、調達先を広げたり販売チャンネルの拡大を実施しているケースが多い。これらの取り組みは、販売・営業、設計、調達、顧客サービスなどの各業務分野の効率化を促進するとともに、産業全体で実施することにより業界全体の業務環境の底上げを果たす役割がある。また、効率的な業務の推進による産業全体の競争力を高める可能性も期待できる。
第二は、分散された経営資源をダイナミックに結びつけ、産業全体の知識集約を図る「情報基盤整備」に対する取り組みの活発化である。先述したGIIのパイロットプロジェクトであるMARISや我が国造船業の高度造船CIMなどが例として挙げられる。これらは、近年のオープンネットワーク技術、オブジェクト技術、STEPなどのプロダクトモデル技術の成果を活かして従来以上に企業間連携の密度を高める仕組みを作り、産業全体の競争力を高めるための産業ネットワーク基盤づくりである。
これらの情報基盤を元に、オブジェクト指向で作られたプログラムを結びつけることで、複雑な処理が簡単な処理の組合せで容易に出来るようになったり、プログラムの再利用が促進されるようになる。また、設計・生産協調を効果的に行うために、プロダクトモデルを複数の組織間で共有・活用することにより、同一の基本図で同時並行作業などを展開できる。さらに、これらをネットワークでつなぐことにより、自社の離れた地域にある設計、生産現場の作業を効率化したり、自社以外の資源を有効活用することなどが可能になる。
これらの情報基盤は、既存のプログラムを改良したユーザが新しく登録しておけば、次に利用するユーザの情報効率が高まることが期待されている。これは、ネットワーク基盤を多くの人が利用、再利用することで業界の優れた知識が自律的に集約される仕組みとも言える。このような情報基盤を持つことで各社の密度が高い連携を実現し、一層の業務効率化を目指すとともに、業界全体の知識共有を高め、かつ知識自体が相互に影響を及ぼしスパイラル的に高まっていくことで産業競争力の強化を図ることが期待されている。