(2) 航空機
1)情報化の狙い・特徴
航空機業界については、航空CALSの取り組み事例を取り上げ、検証することとする。航空業界では、先の建設業界同様、多数の参画者の下で製品が生産されていくため、発注者、機体メーカー、部材メーカーの設計・開発段階における情報共有化を推進することにより、設計期間の短縮と開発時における手戻りを減少させることが課題として認識されていた。これには、以下のような航空機業界特有の背景がある。
・ボーイング社のボーイング777旅客機開発に日本の機体メーカー5社が参加した経験があり、これをもとに部材メーカーも参画できるグローバルなCALS標準に基づくシステム開発体制構築に向けたニーズが顕在化した。
・防衛庁航空機の開発は、防衛庁の管理下で設計審査を行いながら進めるが、防衛庁において2005年までに設計データ交換の電子化率を100%にする目標が設定され、CALSプロジェクトが検討された。
こうした状況から、航空CALSプロジェクト(NCALS)は、航空機開発プロセスにおける基本設計・詳細設計段階の効率化(リードタイムの短縮とコスト低減)を目的に、情報の共有化を中心とする以下の指針を盛り込んだ開発システムの構築と実証実験を行っている。
・多種多様な会社が随時参加できるオープンネットワークに基づく開発体制を構築すること
・国内外の企業が協業できるように、ボーイング社が用いるCATIAに加えCALS標準のSTEPの利用を前提としたプラットフォームを構築すること
・データ管理コスト低減に向けた個別企業毎の設計データの分散管理とそのインデックス情報の一元管理を実現すること
・技術文書の参照等に伴う関係者の利便性の向上と管理コスト低減に向けて技術文書を電子化すること
・各企業の作業量・内容に応じたシステム構築を柔軟にするため、全体では、各社ワークステーションを中心とした分散システムを採用すること
2) 情報化の取り組み概要
航空機CALSは、生産プロセスにおける「組立シミュレーション機能」、「分散データの統合管理機能」、「技術文書の作成・管理機能」を主たる対象に活動を実施している。個々の機能概要は、以下の通りである。
?組立シミュレーション機能
本機能では、個々の部品の形状モデルを「組立シミュレーションファイル」として管理し、干渉チェック、干渉が発生した場合の設計調整を支援する。共通に使う部品は標準部品ライブラリとして作成、登録することにより情報の共有化を図る一方で、組立シミュレーションが不要なエンジン・装備品については、CADデータを削除し、コンピューター負荷を削減する。また、各社が利用しているCATIA以外のCADデータをSTEPを介してデータ変換する機能を提供する。これにより、機体メーカー、エンジンメーカー、装備品メーカーで3次元CADモデルを作成、交換する。組立シミュレーション作業の結果で発見された干渉結果情報は、各社にフィードバックされ、設計手戻りの削減を図る。