3.3 海外の海運・造船関連産業における情報化プロジェクトの動向
(1) 欧州
ここでは、MARIS(MARitime Information Society)プロジェクトを紹介する。
1) 情報化の背景と動機*4
EU加盟諸国の造船産業は、厳しいリストラクチャリングの最中にある。1976年から1997年までの間に、労働力を70%、建造能力を60%以上削減した。これを可能にしたのは新技術の導入や造船所の近代化である。
ヨーロッパには103の造船業者(1997年現在)があり、約12の業者が65%のシェアを占め、上位5社が36%を占める(1996年)。韓国における上位5社のシェアは99%、日本は44%である。ヨーロッパの造船業者は、相対的に規模が小さく、このため、ヨーロッパのほとんどの造船所は、日本や韓国と比べて建造能力が低い。また、韓国の人件費はEU諸国よりも低い。このため、ヨーロッパ造船産業の国際競争力は低下してきている。
また、ヨーロッパの造船業者、特に中小造船業者は、国内需要への依存度を高めつつある。その一方で、世界市場で活躍したり、あるいは顧客ニーズにきめ細かく対応する柔軟性の高い造船業者も現れており、ヨーロッパ造船産業の活力となっている。
ヨーロッパ造船産業のもう一つの重要な特徴は、高付加価値船のシェアが韓国、日本よりも高いことである。
一方、将来の世界の建造需要を見ると、2000年から2002年までの3年間に、建造需要は約30%落ち込むと予想されている。同時に、極東諸国の建造能力の伸びが見込まれている。日本や韓国の造船業者は、中国とジョイント・ベンチャーを組むことにより、さらなる建造能力とコスト競争力の向上を狙っている。
結果として、将来のヨーロッパ造船産業は、強みであった高付加価値船の分野においても国際競争にさらされることになろう。バルク船の需要が落ち込み、極東の造船所が高付加価値船の分野へ進出すると予想されるからである。バルク船の需要は2000年から2002年の間に、約40%低下すると予測されている。極東諸国の進出により、高付加価値船の分野においても建造費が低下し、ヨーロッパ造船産業の競争力はより低下するであろう。
*4 European Commision, "TOWARDS A NEW SHIPBUILDING POLICY", Jan.10, 1997, COM(97)470を元に作成