上記の理由は、アークの自己制御特性に起因するものである。すなわち、図2.5(a)に示すようにGMAWではトーチ高さが変化しても溶接ワイヤの突出長が変化してアーク長を一定に保つ性質があるが、その応答性は数Hzのオーダーである。したがって、溶接トーチの揺動速度がこれよりも速い場合には、(b)図に示すように溶接ワイヤの突出長はほとんど変化せずトーチ高さの変化がそのままアーク長の変化となるため、溶接電流やアーク電圧の変化量が増加し、センサとしての検出能力(精度)が向上する。また、溶接トーチの揺動速度が速いほど単位時間当たりのセンシング回数も増加するため、センサの応答性も向上する。なお、揺動速度が速い場合には溶接電源のインダクタンスの影響により溶接電流波形では位相ズレの問題が顕在化するため、センサ信号にはアーク電圧波形を用いている。
従来の直線反復揺動方式では実用的な揺動速度の上限は数Hzのオーダーであったが、高速回転アーク溶接法では数10Hzから100Hzを越える高速揺動を実現できるために、アークセンサによる開先倣い制御の性能を大幅に向上することができる。
高速回転アークによるアークセンサ・開先倣い制御の原理を図2.6に示す。実際の制御では、回転の前方Cf点を中心に左右のアーク電圧を比較している。これはアークの回転後方側ではアークが溶融プール上にあるためプール形状の影響を受けアーク電圧波形が歪みやすいのに対して、アークの回転前方側では溶接アークが開先に接触するため開先の正しい形状をセンシングできるからである。