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により、これを摂取する上位種が影響を受ける点や分散油の性状変化による毒性の観点から言及している。

彼らの研究によれば、分散処理剤の添加により油分解生物の一種Isochrysis galbanaによる14Cの取込が抑制される可能性はあるが、それにも関わらずIsochrysis galbanaの生息しない条件下で14Cが減少するのは、光学的分解、これと連鎖しない他の油分解生物による分解等、他の要因によるものであり、さらなる研究の必要性を説いている。

また、Swannel et al.,(1997)は、海洋における油の生物分解に対する分散処理剤の影響について、いくつかの条件下で検討を行っている。彼らは、フェーズ・ドップラー・パーティクル・アナライザとチャンバー・スライド法という手法で油滴サイズと微生物の定量を行い、海水中において油分解生物が油の分散を促進することにより、油滴平均サイズの減少と油滴数の増加、及び窒素とリンの供給が油分解生物の成長や活性化につながるという結果を得ている。これは、波動等により物理的に分散された油滴が、海面の油膜と再び合体することなく、さらに分散していく可能性を示唆するものである。

また、この状況下で分散処理剤を添加すると、さらに物理的な分散を助長し、分散油滴数が増加したが、硫黄生成物等、毒性を伴った二次生成物は確認できなかったとのことである。これは言い換えるならば、分散処理剤散布による油の分散促進は、生物分解を促進すると言うことになる。

分散処理剤の研究については、近年、その効能よりも環境への影響に主眼が置かれるようになっており、この環境への影響については、水産生物への毒性よりも油分解生物の活性変化が生態系に与える影響についての研究が最近関心を集めている。

このように研究段階のものも多いが、多くの機関では少なくとも分散処理剤の効果について認めており、今後の緊急防災計画の中におけるこれの使用方法や効果及び生態系への影響の評価方法について研究の方向が向きつつあるようである。

 

3.5.2 防除資機材

油回収装置は、主として付着式、堰式、吸引式、ネット式に大別される。これらの各装置については、その回収能力、操作性、運搬性に多くの改良が加えられてきたが、外洋域では、海象条件が厳しいため、油回収装置の機能が著しく低下する場合がある。

ここでは、今後の資材の運用システムの検討を鑑み、従来の防除資機材の研究に加え、外洋域に対応できる防除資機材に関する研究動向について、学術論文および研究機関へのヒアリング等をもとに情報を整理した。

 

荒天時の外洋における機械的回収に限界があることは、本調査研究における国内外のヒアリングから明らかになってきた点である。しかしながら、即応性の観点から考えれば機械的回収が可能であれば、それにこしたことはないが、近年においては、流出油の機械的回収に関する研究は少ない。その中で、合衆国沿岸警備隊では、大流速用オイルフェンスの開発を進めている(Swift et al.,1996)。このオイルフェンスが本調査研究で対象とするような外洋に対応可能であるかどうか興味深いところである。彼らの論文で紹介されているオイルフェンスは、従来の平面で構成されるオイルフェンスのスカートに水抜き用のアウトレットを設けたバリアのようなものであり、元来2次元構造であるものをフレキシブルな材質の使用によりバリアの

 

 

 

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