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2.2.5 まとめ

流出油処理において、最も重要なことは、まず初期対応の迅速性にある。特に本調査研究で対象とする荒天時の外洋という条件下においては、波浪のエネルギーによる流出油の乳化が早く、また沿岸漂着や陸域への影響についても考えなくてはならない。しかしながら、荒天時における機械的回収が効率的でないことは、表2-2-1、表2-2-2に示した回収率から明らかである。

Exxon Valdez号事故の事例では、多くの要因がその区域の緊急防災計画の実行を妨げた。まず、機械的回収を実施するための装置を補完・運搬する台船が整備中のため、天候の善し悪しに関わらず機械的回収ができなかった。また、初期対応策として最も有効な手段のひとつである分散処理剤散布については、FOSCの判断ミスから使用の機会を逃してしまい、大量の油が沿岸に漂着し、大きな被害を与えた。

この原因の一つとしては、行動決定プロセスにおいて、多くの関係者が関与しすぎたことが挙げられる。環境保全上、多くの関係者が関与することになると思われるが、流出油対応のように時間が重要な要素である場合には、必ず主導機関が指揮を握って、迅速かつ的確な最終決定を下さなくてはならない。

また、海岸線の浄化作業においては、高温高圧水による洗浄が行われ、後にこれに対する批判があったが、これの実施については、潮間帯生物、海生生物、海域を利用する野生生物それぞれの汚染状況とそのいずれの保護を最優先とすべきかを考えて決定する必要がある。

一方、海岸線浄化に伴う現場調査は、海岸基層の鉱物粒子や自生の微生物による浄化作用に関する新しい知見をもたらした。

これにより、分散剤使用の判断の迅速・重要性と海岸の浄化能に対する認識が高まったとされている。

Sea Empress号事故は、分散処理剤の有効性を明らかにした事例である。イギリスは分散処理剤使用については積極的な国であり、事故通報後の分散処理剤散布航空機の迅速な出動準備、的確な出動決定判断により流出油の実に37%の分散処理に成功した。

また、分散処理剤や分散油の毒性についても、これが軽微であることを示唆した例でもある。この事例に限らず、流出油対応で生ずる廃棄物処理問題は、最大の課題のひとつである。Sea Empress号事故では、約20,000トンの液状廃棄物と約11,000トンの固形廃棄物が発生したが、海上で回収された液状廃棄物は、船舶によりミルフォード・ヘブンに輸送後、テキサヨ製油所へ、また海岸で回収された液状廃棄物は、ミルフォード・ヘブンの最も近い製油所へそれぞれ輸送され処理された。油濁した海岸の廃棄物は、様々な素材で構成されているので、その処理は容易ではないが、この事故では、テキサコ製油所におけるランド・ファーミングによって処分された。

Arisan号事故の場合、流出油回収に加え、船内の燃料油抜き取りが極めて複雑かつ困難な作業であった。座礁状況から回収船舶の横付けができず、ヘリコプターによってポンプと、ホースを船上に運搬しなければならなかった。さらに、いつ船体が破損するかわからない状況下で機関室経由で燃料油タンクに到達しなければならないという危険な作業条件であった。幸い抜き取り作業は成功し、被害及び防除作業・費用の軽減につながったが、作業安全衛生、環境保護、防除費用等、対応の優先順位は、起こりうる利害関係を考慮に入れて決定する必要がある。

また、海岸線の汚染は深刻なものであったが、航空機および現地踏査による調査でこれを予備的に評価し、作業に必要な資機材・人員を見積もり、的確な配置を行う等、防除対応として参考

 

 

 

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