ウ. 社会的問題としての裁判審議の遅滞
メディアトュール寄せられる苦情の中には、社会的特徴として裁判審議において2つのタイプの受入れがたい遅滞が見受けられている。
?@ 社会的利益に関する訴訟
?A 社会保障に関する技術的訴訟
裁判所の決定を待っている人々が、老人、病人、障害者、所得のない人などの弱者であったり、社会の構成員の中でも虐げられた人々であることを考えれば、状況はもっと悪くなっている。社会的な難問が次第に増えていく状況においては、これらの特殊裁判の過密は重大な問題となる。たとえメディアトュールはこれらの問題に直接介入できなくとも、これらの状況に関心を集める必要な措置を考えなければならず、またその問題を解決する適当な方策を考え、適用しなければならないとされる。
(3) フランス共和国のメディアトュールの現実的課題
フランス行政が持っていなかった私人が行政との日常的接触において受ける軋轢や、個別紛争、苦情の処理機関としての役割が、本来の意味のメディアトュールに求められるものであった。しかし、メディアトュールが個別紛争に介入すればするほど、行政の制度の増殖による被害がいかに多くなってきているかが明らかになってくる。
これらの状況は、日本でも同様に指摘されているが、個別の法制や縦割りの行政のため、融通が利かず結果として不利益を被る人が多いことであり、複雑化した法制度をなかなか理解できないことである。その結果、善意の被害者が増殖されることになるが、苦情の相手方の公共機関でさえ自分たちが運用する手続には瑕庇がないと反論される。現在の大規模な行政システムのもとでは、問題が起こってからでないと問題箇所がわからないことが多い。そういう意味では、オンブズマン機能も事後的な苦情処理ではあるが、柔軟さゆえその存在意義は高いといわざるを得ない。しかし、問題は年間4万件以上にも苦情を処理しなければならない体制にある。中央のメディアトュール事務所に集中することを抑制するために県代表が設置されたとはいえ、それでも非常に多い数であり、年々増える傾向にあるという。
次の問題は、メディアトュールが行政府なのか、司法府なのか、はたまた立法府に属するのかという位置づけの問題である。フランスにおいても行政法上の論争になっているが、前述のようにメディアトュールヘの苦情申立件数は多く、コンセイユ・デタに匹敵すると言われる。またメディアトュールの審査は、裁判所と違い無料で、裁判に比べて審査期間も短く、出訴期間の制限がない。そのため、メディアトュールに審査案件が増えていくことになるが、同一案件にコンセイユ・デタとメディアトュールが係属する事例も見受けられ、