2. フランスにおける自治体行政を巡る苦情処理機関の現状と動向
(1) フランス政統制とメディアトュール
ア. フランスの行政統制の基本原理
(ア) フランスの行政統制の基本形態
フランスにおいては、行政手続の統制という問題はあまり重要視されてこなかった。それは、フランス行政における伝統的な自律的行政観による官僚制の優位と、行政統制としての行政裁判所制度、議会統制、行政の自己統制が健全に働いているためと考えられていた。
つまり第1に、フランスにおいては「行政」は公益という目的実現を図るものであり、法律に依拠して活動してさえいれば適法性の要請が充足され、もしそれが関係人の権利・利益を侵害するものであれば、事後的に裁判所による救済を与えればよいと考えられていたからである。そして、事後的な権利・利益の回復とともに、行政決定に先立つ事前の保障を関係人に与えることになると、行政運営の遅滞と重圧化を招来せしめるという行政観が根づいていたからである。
第2に、フランス独特の行政裁判所としてのコンセイユ・デタ(Conseil d’Etate)が行政裁判制度の中核として位置し、行政行為の適法性を目的とする越権訴訟と、行政の不法行為責任を問う全面審査訴訟が有力な手段として行政全体を規律しており、オンブズマン制度よりも効果的であると考えられてきた。
第3に、議会統制は議員個人の活動と議会としての活動による統制がある。前者は陳情などによる行政担当者への働きかけ(intervention)と、原則としてlヶ月以内に回答することを要求される公式的な大臣宛の文書質問(les questions ecrites)があり、こうした活動を通して議員と選挙民との結びつくことが議員の役割であるとの考え方が定着している。また、後者の議会活動は、立法手続きとしての予算及び法案の審議、議員の質疑政府報告と討議などで、こうした議会活動を通して普段に行政の統制が行われている。
第4に、行政の内部統制においては、組織法上の上級機関による統制と、政府全体の一般的諮問機関としてのコンセイユ・デタ行政部(sections administratives)、上級機関に対して報告を行う特別機関として各省に置かれた監察局(Corps d’Inspection)、会計検査院(Cour des comptes)による財務統制の場合がある。フランスの行政監察局は、日本と違い行政機関全体を監察の対象とするものではなく、各省ごとに設置され任務や組織形態に違いがある。そして、大臣への情報提供という形で大臣を補助する機能を果たしている。