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しうるのか、日本の常識では謎というしかない。しかし、それを支える研修プログラムもさることながら、組織編成原理の柔軟性、素人にも開かれている組織の開放性、状況対応を旨とする各メンバーの政策指向性に気づくならば、この国では日常的に危機管理や非日常対応の訓練を重ねていると見ることもできるのである。

最後に、行政とボランティアとの関係について若干のコメントをしておきたい。国と時代とを問わず、行政とボランティアとの間には明らかなイメージの落差が存在する。筆者の経験から一例を示せば、行政機関にはファックス・コピーマシン・文具・ファイルが完備し、会議などには関係資料が整えられて全員に配布され、トップの重々しい形式的な挨拶で始まるが、ボランティア組織に顔を出すと、オフィスの備品はないかあってもひどくお粗末で、隣のコンビニまでコピーに行くことが常態であり、広告の裏紙に重要なメモが書かれてあったり、電話番号などワイシャツのクリーニング用の厚紙に記載されてあり、手書きの分厚いアンケート結果など回し読みにしていて、もうがやがや話がかなり進んだ頃、「それじゃ、改まるのも何ですが、今月の例会を始めましょうか」とかいって、「そうそう、これは○○さんからの差し入れでーす」といった妙な調子で進んでいく。最初はこの秩序感のなさに辟易しても、次第にこのケチ根性と実質重視の姿勢が、ボランタリズムの崇高な精神と美学そのものであることが了解されるのである。

しかし、都市化の進展、高齢化の進行、文化活動等への行政活動の拡大と複雑化に伴い、行政と市民セクターとのインターフェイスはますます拡大してくる。行政、とくに自治体行政はもはや、市民のもつ情報・知恵・意見・苦情なしにはいかなる政策開発もなし得なくなりつつある。近年のボランティア活動への注目は、決して市民の労働力への依存だけではなく、こうした市民社会が蓄えてきた資源全体への注目に他ならない、そうして、こうしたインターフェイスの拡大・相互交流の増大は、一般論としていえば、行政のもつ制度思考・マニュアル志向・秩序感・コスト軽視傾向と、ボランティア組織のもつ政策思考・状況志向・自発性・節約精神との相互浸透ないし相互取り引きの契機となるであろう。しかしあえて、どちらがどちらにより接近するかについて予想を試みるならば、冒頭にも触れたように、行政は今後、市民社会の、とくにボランティア組織の行動原理のなかに取り込まれ、融解して行かざるを得ないのではないかと思う。というのは、社会はますます変化の速度を速め、状況に対応して不断に制度改革・政策開発を迫られるという「変化の制度化」が進行する一方、財政的な余裕はほとんどなくなり、マメに働いて明るく無駄を排する一種の「文化」の確立が行政機関にも不可欠となってくるからである。

 

 

 

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