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人間をマネージする「第二の専門職業(Second profession)」の制度化を暗示していると屯いえよう。

ただし、ここでいう「制度化」とは若干の注意を要する。「制度」を社会に根づいた慣行ないし行動パタンという意味で理解するならば、オーストラリアはボランタリズムが十分定着し、制度化した社会である。しかしシドニーのごとく、都市化と共にボランティア人口の割合が減少し、放っておいてもボランティア活動が行われるような時代が過ぎていくと、自覚的にボランティア活動を促進し、そのマネジメントを担う人材を育成する必要が生じてくる。同時に、社会システムの高度化・複雑化、あるいは高齢化と共に、ボランティア活動の内容にもより高度なスキルが求められてくる。NSWボランティアセンターの幸みは、かつて自然に、無自覚のうちになされていたボランティア活動とそのマネジメントから、そのエッセンスを意識的に抽出し、それを伝統の中での継承ではなく、人工的な教育研修プログラムを通して新たに開発された「制度」として社会全体に広めていこうとする試みだということができる。そうした意味で、「ボランティア・マネジメント」という考え方は、ボランタリズムの伝統のない日本に対してむしろ少なからぬ示唆を与えるように思われる。

 

6. おわりに

 

最後にまとめとして、冒頭に掲げた論点ないし対比軸に関してごく簡単なコメントを加えておきたい。まず、国際比較という観点からは、オーストラリアのあまりに特異な国土条件のために、安易な制度比較は控えるべきだという印象をもつ。むろん、たった今ボランティア・マネジメントに関連して指摘したように、都市化の中でのボランタリズムの自覚的制度化の必要という点などは、日本にとって重要な教訓といえる。しかし、そもそもなぜこの国ではこれほど多くの人間がハッピーな顔をして、世のため人のために只働きするのか、もっと一国理解を深化させるべきだろう。故司馬遼太郎氏もこの国を訪問して感心していたように、実にストレスの少ない社会である。例えば最も多忙な職員でも、夜の8時までには仕事を切り上げるという。休日働くことは絶対にない。そうして、執務中に許可を受けてボランティアの研修を受けることもあり、組織外では奉仕活動に汗を流す。ストレスの大きさと自己中心性、裏からいうと生活の快適さと奉仕への意欲とは、戦争の心理学的分析で

 

 

 

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