ただし、ここでいう「制度化」とは若干の注意を要する。「制度」を社会に根づいた慣行ないし行動パタンという意味で理解するならば、オーストラリアはボランタリズムが十分定着し、制度化した社会である。しかしシドニーのごとく、都市化と共にボランティア人口の割合が減少し、放っておいてもボランティア活動が行われるような時代が過ぎていくと、自覚的にボランティア活動を促進し、そのマネジメントを担う人材を育成する必要が生じてくる。同時に、社会システムの高度化・複雑化、あるいは高齢化と共に、ボランティア活動の内容にもより高度なスキルが求められてくる。NSWボランティアセンターの幸みは、かつて自然に、無自覚のうちになされていたボランティア活動とそのマネジメントから、そのエッセンスを意識的に抽出し、それを伝統の中での継承ではなく、人工的な教育研修プログラムを通して新たに開発された「制度」として社会全体に広めていこうとする試みだということができる。そうした意味で、「ボランティア・マネジメント」という考え方は、ボランタリズムの伝統のない日本に対してむしろ少なからぬ示唆を与えるように思われる。