ルート・審査・研修に従事している。1996年度予算は市から50万ドルが支出され、州政府から2万ドルの補助金が出ている。すべてボランティアによる活動であるから人件費としての支出はほとんどなく、研修と実際のオペレーションに使われる道具(車両・電話・ユニフォーム・ヘルメット・ブーツ)や食糧費に支出されている。
課長の第一の仕事は有能なボランティアを集め、育てることにある。実際には、この分野で人集めにとくに苦労するということはない。(95−96年度では、2月から7月にかけて多数の新規参加者があり、8月から10月にかけて辞退者が多かった。)ボランティアをやろうとする動機は本音のところでは千差万別で、J・バトラー課長によれば、黄色のユニフォームが欲しいとか、英雄的救助活動にかかわりあいたいとか、若い娘との出会いに期待するとか色々あるが、市としてはボランティアたちの欲しがっているものを把握した上で、それを与えつついかにそれ以上の労働サービスを獲得するかが重要であるという。また、オペレーションの中身が住民の生命・財産、あるいはボランティア自身の生命にかかわるような仕事であるため、審査は厳格に行い、不適格と判断すれば遠慮なく参加を断るという。こうしたリアリスティックな対応については、「ボランティア・マネジメント」という概念で近年リーダー研修が始まっている。
さて、課長は平時においては、研修とコミュニティ・サポートという形でボランティアたちと接し、顔と名前を覚え、力量を知る。年間の活動時間は研修が2万7300人/時間(全活動時間の63%)、コミュニティ・サポートが6000人/時間(14%)であった。つまり大部分は平時の日常的接触なのである。一方、実際のオペレーションは1万人/時間(23%)で、この緊急事態では課長は「防災計画」やマニュアルなどかなぐり捨てて、瞬間瞬間の判断と指示を行う。同課のある建物には対策本部が設けられ、現在コンピュータによる緊急対応システムも開発が進められている。課長は日常的に組織化している数百人のボランティアに指示を与えることに加えて、罹災者が多数発生したような場合には、さまざまな団体教会組織、例えば赤十字や先述の福祉団体等に応援を依頼する。その底辺レベルでのボランティア人口は数千人にのぼることもあるという。それらは、防災計画に記されていることもあればないこともあり、課長の頭の中のデータ・べースがものをいう時といえる。
インタビューに応じてくれたこの課長の話は迫力満点で、ミスター緊急管理といった印象さえあったが、最後にトーンを落として、日本でももっと多くの人が「オールタナティプ・キャリア」を志してボランティアの世界に入るとよいと思うと語っていたのが心に残った。仕事とは別の技能を無料で修得し、職場や近隣とも違う人的ネットワークを広げる
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