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(1) 市民相談(ブリスベン)

最初に、市民の日常生活に密着しており、日本との比較という点からも興味深いブリスベン市の「市民相談」(Citizens’Advice Bureau,Brisbane Incorporated)をとり上げたい。

同市の市民相談は1972年の設立、窓口と事務所を市庁舎1階の入り口横に置き、月曜から金曜の午前10時から午後4時まで市民のよろず相談に応じている。市民は、外国人も含めて誰でも無料で相談することができる。相談内容の範囲は、おそらく日本の行政相談よりも広いが、必ずしも行政への苦情申し立て機関ではなく、斡旋を中心に活動している点は日本とも、またイギリスの同名の機関とも似かよっている(ただしオンブズマンを紹介することはある)。ブリスベン市の市民相談は市(City Council)から場所の提供を受けている以外はいかなる政府機関、宗教団体とも関係をもっていない。また上位団体や全国組織もなく、他市に同名の機関があってもそれぞれ独立している(ニュー・サウスウェールズ州など他州ではこの限りではない)。

完全なボランタリズムで運営されているため、現在30人いるスタッフはむろん無給であり、運営にかかわる最低限の費用は寄付に頼らざるをえない。パンフレットによれば、年間最低5ドルの寄付で賛助会員になれる(Enrolment as a Fimncial Supporter)というから、ささやかなものである。事務室にコンピュータがあるので、例えばこれはどうやって購入するのかと質問すると、市民のセコハン(お古)とのことであった。コピーも庁舎上階にある市のものをその都度使わせてもらっており、使い古しの封筒のリサイクルから古色蒼然たる事務用品まで、どこか逆説的な意味で“ボランタリズムの美学”が貫かれているようにも見えた。

さて、市民相談の窓口には「ボランティア信条」(The Volunteers’ Creed)というスクリプト体の文書が額に入れて置いてあり、相談受付のポリシーについてたずねると、これがまさにそうだと示された。それは次のように言う。

「われわれは正確な情報を伝える。

われわれは誰からもアクセスできる。

われわれは相談者(クライエント)の匿名性を尊重する。

われわれはいかなる政府・政党・教会とも関係を結ばない。

われわれは訓練を積んだカウンセラーではない。

われわれはアドバイスはせず、選択肢(オプション)を示す。

 

 

 

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