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以下の考察では、まずオーストラリアの自然・社会・歴史について最低限の要点を確認した上で、ボランタリズムが生まれてきたこの国の土壌を考え、全国レベルの統計資料からボランティア活動の概要を示す。次に「日常におけるボランティア」として、福祉・コミュニティ・市民相談の分野の事例を紹介する、続いて「非日常におけるボランティア」として、緊急管理・防災の分野の事例を紹介する。最後に「ボランティア・マネジメント」の動きを紹介したうえで、これらの分析を受け、冒頭に示したいくつかの理論的関心からまとめを行いたい。

 

2. オーストラリアの社会条件とボランティア活動

(1) 国土と社会の特色

オーストラリアは、768万平方キロという日本の20倍以上の国土面積に、1650万の人口しか居住しておらず、人口密度は日本のわずか150分の1という国である。鉄鋼・石油・天然ガス・ウランなどの天然資源が豊富に産出される一方、小麦等の農業、羊毛を中心とする牧畜業も盛んで世界の主要輸出国となっており、経済的にはきわめて恵まれた国といえる。社会的に見ても、原住民(アボリジニ)の数は混血を含めても20万人弱であり、人口の大多数はイギリス系移民の子孫で占められ、しかも大陸全土にわたって方言のほとんどない均質性を保っている。また、国民全体の8割近くがキリスト教徒であり、これは信仰をもつと表明する人口の実に99%を占める、同じくヨーロッパからの移民によって形成されたアメリカと比べても、国民の人種・言語・宗教面における同質性という点では、むしろ対照的な関係にある。

要するに、コアラやカモノハシといった激しい生存競争を経験することなく生き長らえたこの国固有の動物種が象徴するように、オーストラリアは、世界の中でもとりわけ紛争・摩擦・ストレスの起きにくい社会だといってよい。裏からいえば、国土の広さ、自然の大きさに比較して著しく少ない人口、小さい人間が自発的に協力せざるをえない自然条件と、また相互協力を促さずにはおかないような社会条件とが、この国には備わっているということである、その意味で、オーストラリアはボランタリズムが成長する肥沃な土壌に覆われているのであり、したがってこの地に育った植物の種子を日本の痩せた土地に移植しても、そのままスクスクと成長するという保障はない。しかし他方、「行政の限界」「都市化の波」「市民社会の成熟」といった各国共通の土壌の変質という観点から見るな

 

 

 

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