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4.戦略選択の規定要因


(1)日本経済のシナリオ:改革ケース、非改革ケース

 日本がその国益を長期にわたって最大限に実現し確保してゆくためには、以上のようなグローバリズムを主軸とした混合戦略をとる事が望ましいが、冒頭に述べたように、そうした外交戦略を選択することは日本国内の経済社会構造にそれなりの影響を及ぼさざるを得ない。逆に言えば、日本の経済社会措置のあり方そしてその改革のあり方によって、日本がとり得る世界戦略も決まってくるという事である。

 今日の日本経済は、長期的な構造変化につながるいくつかの重大な問題をかかえ、あるいはそうした構造変化の趨勢に直面している。

 第1は、財政赤字の系積である。この問題の改革が進まなければ、やがて国民負担率が著しく高まり(2025年時点での累積財政赤字の対GDP比ならびに国民負担率は、通産省推計ではそれぞれ175%、65%、経済審議会推計では153%、73%)、それは経常収支赤字の増大、為替レート下落、物価と失業の上昇、実質生活水準の低下という形で日本経済の衰退を加速することになる。

 第2は、産業の空洞化である。現状の内外価格差の下では、競争力の高い産業や企業の流出が進み空洞化が進展するおそれが大きい。空洞化を回避し、より高次の国際分業を実現するには技術革新の一層の促進、低生産性部門の合理化等による産業措置の高度化が必要だ。

 第3に、人口の高齢化と少子化が加速している。1997年1月の厚生省人口研の長期推計では、日本の人口は2007年128億人のピークから21世紀末には0.7億人へとほとんど半減すると見込まれる。このプロセスは高齢化の社会的費用負担の問題を深刻化させる。日本が、世界に開かれた多国間のグローバリズムを外交戦略の基軸として追求するためには、少なくとも以上の3つの困難を克服する抜本的な経済構造の自己改革が必要である。またAPECの自由化促進に貢献するためにも、同様に日本の経済構造自体の一層の関放と効率化が必要である。そうした改革が進まなければ、日本は国益のために望ましい世界戦略を追求する事が難しくなる。

 

 

 

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