V:日本外交の進路
1.日本外交の進路:日本の長期戦略
(1)戦略の目的
日本外交の進路を、ここでは広くとらえ日本の長期戦略として考えてみたい。
戦略とは目的を実現する総合的な取り組みであるから、まず目的を確認する必要がある。日本は明治以降、欧米先進国へのキャッチ・アップという目標を追求してきたが、とりわけ第2次大戦後は復興過程の中でその目的が強く意識され広く共有された。しかし、日本が名目的に世界トップ水準の1人当たり所得を実現した1980年代後半以降、それほど共有される目的意識は見出し難くなっているように思われる。国民が共有する目的は何かを明らかにする事はそれ自体大きな研究課題であり、ここではその問題に深く立ち入る事はできない。しかし、最低限共有される目的はあるだろう。人々は国に対してさまざまな役割を期待していると考えられるが、少なくとも経済における安定と発展、社会における安心、そして国際社会における安全を求めない人はいないだろうという意味で、安定、安心、安全の確保は国の戦略の最低限の目標と考えてよいのではないか。
これらの目的を達成してゆくためには、日本のように世界各国や地域との相互依存関係の深い国にとってはとりわけ、世界のシステムや状況をそれらの目的を実現しやすい方向にしむけてゆく事が重要である。そのためには国際社会における日本の存在感と日本への信頼を高める事によって、日本の発言力を高めてゆく必要がある。
(2)意思決定の主体と決定メカニスム
次に重要なのは、外交の進路あるいは長期戦略を決定する主体は誰か、そしてその決定メカニズムはどのようなものかという事である。主体は首相なのか、内閣なのか、政治すなわち国会なのか。あるいは行政なのか、各種の利益団体なのか。そして意思決定は誰の利益のためになされるのか。生産者(大企