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とすると、多大な時間を費やすからである。米国はウルグアイ・ラウンド交渉に早く着手しようと各国をせきたてたが、挫折してしまった経緯がある。1982年のGATT閣僚会議のことだ。そこから米国は自由貿易地域という二国間協定、ハブ・スポークスの関係作りに努めることになる。第2の理由は、米国の製造業の国際競争力の停滞とサービス産業(金融、情報、通信、航空など)の比較優位化だ。自由貿易地域による域内関税ゼロを利用して、停滞している製造業を有利に導くと同時に、これまでGATTの多国間交渉の場では取り上げることが難しかったサービスの自由化を、スポークからみれば圧倒的に大きい米国市場への小国のアクセスを容易にすることと引き換えに、引き出すことができたからだ。

(5)関税同盟と自由貿易地域の比較

 今日の時点でEC型の共通関税障壁をもった関税同盟とNAFTA型の自由貿易地域を比較すると、次のようにいえる。貿易の域内自由化を目指したEC型の関税同盟は、92年にはサービス、資本、労働の移動の自由化を織り込んだ単一市場(Single Market)となり、99年には完全固定相場制からさらに各国の通貨の利用を1つのヨーロッパ通貨に統合して単一通貨(Single Money)、すなわちユーロの確立を目指している。このように完全統合が達成されるのであれば、これは自由貿易地域より優れた地域統合である。そのEUに周辺の欧州諸国や旧社会主義の東欧諸国が新たに加盟するとき、こうした新規加盟国はこれまでの高い関税を、それにくらべかなり低いEU並みの対外共通関税の水準に下げる必要がある。これも第三国からみて望ましいことである。

 これに対し自由貿易地域は、前述の原産地規則という最大の難点をもっている上に、域外の第三国に対する関税は下らないのだから、差別性の性格が強いといわざるを得ない。問題は果たして、自由貿易地域を世界の全地域に広げていけば、全ての国が自由貿易地域のメンバーになるわけだから、世界の貿易障壁がゼロになり、サービスの自由化も進む、だから自由貿易地域はマルチラテラリズムを補完することになるのだ、という米国の主張通りにことが進むどうかである。自由貿易地域はマルチラテラリズムに向かって促進要因(building blocks)になるのか、あるいは反対に阻害要因(stumbling blocks)になるのか、という議論だ。しかし上述したように、複雑な原産地規則上の規定を新たなスポークと結ぶときの複雑さ、またそのことが旧スポーク国へ影響を及ぼすときには再び旧協定の内容を見直す必要があるといった膨大な作業を考えると、自由貿

 

 

 

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