まり特別に思慮を与えるという特恵的(preferential)な取り扱いをする結果、第三国に対しては関税を下げないため結果的に差別扱いをすることになるからだ。
この特恵的な地域貿易協定は、GATT(95年以降 WT0)の基本的精神に反しているのである。というのは、GATTの原則は、最恵国待遇(Most
Favored Nations;MFN)条項といって、特定の国に対して関税を下げれば、その恩恵は全ての国に均霑すべし、したがってどの国も差別してはならないという無差別(非特恵)が基本になっているからである。こうして経済の中でも貿易の問題に限ると、貿易におけるリージョナリズムとは、最恵国待遇を適用しない特恵的で奉別的な地域協定を指す。
こう整理すると、2つの問題が生じる。1つは、GATTの基本原則にもとる地域協定が何故、許容されてきたのか。2つは、APECも1つのリージョナリズムならば、これもGATTの基本概念に反するのか。「リージョナリズム」(特恵的)が「オープン」(非特恵的、無差別的)の対立概念ならば、APECを「オープン・リージョナリズム」と性格づけるのは形容矛盾ではないか、という問題である。
(3)貿易創出と貿易転換
第1の問題は、第2次世界大戦後の地域貿易協定が、戦前のブロックとは、次の点で根本的に違っていることからきている。戦前のブロックは、域内の加盟国だけを優遇するという点では戦後のECやNAFTAと変わらない。違いは、第三国に対して貿易障壁を絶対水準として挙げたこと、そうして多くの場合、決済同盟を伴い、第三国に対する決済方法、決済通貨の選択、資本取引を制限したことにある。戦後の地域協定の代表例は先のECとNAFTAだが、戦前のブロックと異なるのは、第三国に対して貿易障壁を絶対水準として高めたわけではないところにある。勿論、決済同盟などを伴ったわけではない。
第三国に対する貿易障壁が地域協定を結んでも絶対水準として高められることがなければ、第三国が貿易上差別されることになるかどうか。ここで登場した概念が、「貿易創出効果」と「貿易転換効果」である。地域協定で域内の関税がゼロになれば、域内の加盟国同志の貿易は拡大し、その誘発効果で第三国からの輸入が増えることも有り得る。これが貿易創出効果である。しかし、拡大する域内貿易の中には、それまで域外の第三国から輸入していた商品を域内の加盟国からの輸入にシフトするという貿易の転換が含まれている。もし貿易創出効果の方が貿易転換効果より大きければ、第三国とて被害