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6. 実践報告会の開催
 2007年1月に、神戸少年の町でトレーナー養成講座を修了した専門職を対象にフォローアップセミナーとして実践報告会を開催した。CSPを用いた親支援を行った専門職(児童相談所の職員2名と児童養護施設の職員1名)から実践報告が行われ、実践への活発な議論が行われた。
 
6.1 対象
 2007年1月までに神戸少年の町でトレーナー養成講座を修了した専門職(348名)を対象とし、郵送による参加の呼びかけを行ったところ、51名が参加した。
 
6.1.1 所属機関・職種
 以下のとおりである。
 
表6-1 所属機関表
児童相談所 24名
児童養護施設 16名
乳児院 4名
児童家庭支援センター 2名
児童自立支援施設 1名
福祉事務所 1名
保健所 1名
情緒障害児短期治療施設 1名
大学 1名
51名
 
表6-2 職種
児童福祉司 13名
児童指導員(主任含む) 11名
児童心理司 10名
保育士 7名
相談員 4名
その他
(施設長・書記・学生)
3名
保健師 2名
心理士 1名
合計 51名
 
6.2 日時と場所
 2007年1月28日(日)にチサンホテル神戸にて開催した。
 
6.3 発表者
 司会を社会福祉法人神戸少年の町児童指導員の野口啓示が務めた。実践報告は千葉県中央児童相談所児童福祉司本多泉氏、A県児童相談所A児童福祉司、そしてB児童養護施設B家庭支援専門相談員が行った(ケース発表をされた2名については、プライバシー保護を考え、個人名と団体名の記載を控える)
 
6.4 参加費
 経費には全て助成金を当て、参加費を無料とした。
 
6.5 報告会の内容
 報告会の内容を報告する。3名の報告者と司会でパネルディスカッション形式の実践報告会を行った。以下に報告の要旨を掲載する。なおプライバシーに配慮し、個人が特定される恐れのある情報は削除してある。
 
6.5.1 発表1(千葉県中央児童相談所 児童福祉司 本多泉氏)
千葉県における実施状況
 千葉県では、平成15年11月からCSPの実践が始められ、平成19年1月15日現在で、60名のトレーナーが千葉県にいる。トレーナーの所属機関を見ると、児童相談所35名(58.3%)と多く、児童養護施設8名(13.3%)、家庭児童相談室8名(13.3%)となる(表6-3)。トレーナーの職種は表6-4のとおりである。49ケースに対して実践されている。ケースの種別では身体的虐待が圧倒的な割合を占めているが、心理的虐待ケースについても実施されており、性格行動、自閉、触法ケースにも実施されている(表6-5)。プログラム開始時の児童の処遇に関しては、ほとんどが在宅のケースに対してなされているが、施設入所中、一時保護中の児童の保護者にも、家族再統合を目的としたケアが行われ、家族再統合が確認されている(表6-6)。児童の性別では女児が29ケース(59.2%)と多く(表6-7)、プログラム開始時の児童年齢では、4〜6歳(14ケース(28.6%))と小学校低学年(13ケース(26.5%))が多くなっている(表6-8)。セッションへの参加者は実母29ケース(59.2%)、養父・実母7ケース(14.3%)、実父母6ケース(12.3%)となった。
 
表6-3 千葉県トレーナーの所属機関
児童相談所 35名(58.3%)
児童養護施設 8名(13.4%)
家庭児童相談室 8名(13.4%)
保健センター 3名(5%)
乳児院 2名(3.3%)
家庭支援センター 2名(3.3%)
県児童家庭課 2名(3.3%)
合計 60名
 
表6-4 千葉県トレーナーの職種
児童福祉司 23名(38.3%)
心理判定員 10名(16.7%)
家庭相談員 7名(11.7%)
児童指導員(家庭支援専門相談員を含む) 5名(8.3%)
保育士 3名(5%)
保健師 2名(3.3%)
児童家庭支援センター長 2名(3.3%)
その他 8名(13.4%)
合計 60名
 
表6-5 実施ケースの種別
虐待 身体的 40ケース(81.6%)
心理的 4ケース(8.2%)
性格行動 3ケース(6.2%)
自閉 1ケース(2%)
触法 1ケース(2%)
合計 49ケース
 
表6-6 プログラム開始時の児童の処遇
施設入所中 9ケース(15.6%)
一時保護中 9ケース(15.6%)
在宅 31ケース(68.8%)
合計 49ケース
 
表6-7 児童性別
20ケース(40.8%)
29ケース(59.2%)
合計 49ケース
 
表6-8 プログラム開始時の児童の年齢
1〜3歳 6ケース(12.3%)
4〜6歳 14ケース(28.6%)
小学校低学年 13ケース(26.5%)
小学校高学年 8ケース(16.3%)
中学生 7ケース(14.3%)
高校生 1ケース(2%)
合計 49ケース
 
表6-9 セッションヘの参加者
実母 29ケース(59.2%)
養父・実母 7ケース(14.3%)
実父母 6ケース(12.3%)
実父 3ケース(6.2%)
実父・実母 1ケース(2%)
養父 1ケース(2%)
里父母 1ケース(2%)
里母 1ケース(2%)
合計 49ケース
 
6.5.2 発表2(A県児童相談所 A児童福祉司)
主訴:
 母からの身体的虐待(学校からの通告)
問題の経過:
 X年に他府県において虐待通報があり、一時保護等を実施していたケースであった。その後、X+2年A県に転入。すぐに学校からの通報があったが、母は事故と説明。しかし、X+3年再び学校が傷痕を発見し、通告に至る。児童及び母と面接、事実確認と指導を行う。父母が来所した際に、CSPを提案すると同意したので、実施となった。母は専業主婦、本児の落ち着きのなさへのしつけとして体罰を用いていた。体罰を容認した。父は転勤族。ほとんど家にいない。性格は温厚だが、母を止められないとのこと。在宅での支援であった。
CSPの経過:
 2週間に1回のペースで開始したが、途中から毎週になった。面接時間を1時間に設定したので、20分を様子伺い、そして40分でプログラムを実施した。母はプログラムに積極的に取り組んだ。しかし、ロールプレイでは、子どもへ一方的に詰め寄るようなしつけをする等が見られた。フォローアップは拒否。
CSPの結果:
 クラスヘの満足度調査では、ほぼ満点。ロールプレイの有効性も評価していた。母親の気づきには有益であったが、スキルの習得まではいたらなかったのではとの感想を持った。その後、体罰が再発。指導を再開せざるを得なくなったが、学校の評価でも、以前と比べると、虐待の頻度や程度はかなり低くなっているということであった。そこで、分離をするという方針を出さなかった。母は「できるだけ体罰をしないようにはしているのだが、自分自身の怒りのコントロールが難しい」と。その後、他県へ転出したので、指導依頼を行った。
 
6.5.3 発表3(B児童養護施設 B家庭支援専門相談員)
主訴:
 母からの身体的虐待(病院からの通報、一時保護の後、施設入所)。
問題の経過:
 X年病院より児童相談所へ虐待通報。その後、病院・市町村窓口・保健所・保育園・児童相談所が連携して、在宅支援を行った。が、X+3年一時保護され、その後B児童養護施設へと入所となる。それから一年後、母からの引き取りの希望があった。これを受けた事例検討会を、病院・市町村窓口・保健所・保育園・児童相談所・B児童養護施設等が連携して行い、引き取りに向けたプランを作成していく過程で、CSPの実施となった。検討会には母等の親族も参加することもあった。
 家族関係は、母と継父、そして二人兄弟。母は思春期後期より、心療内科を受診しており、服薬をしている。薬物への依存傾向あり。
CSPの経過:
 母は引き取りを希望するも、育児不安は高く、引き取りの後の子どもとの生活にも不安があった。施設の家庭支援専門相談員として母の悩みを聞く中で、母の適切な養育を学びたいという意思が確認されたため、児童相談所と協議の上、引き取り後のアフターケアを含めて、施設でCSPを実施した。
 引き取り前の数ヶ月前から開始。本児らの外泊の前に実施。外泊から戻ったときに感想を聞くという方法であった。4回が終了した時点で、引き取りになった。その後、2回ほど実施したころに、母は継父との問題で、不安定になり、一時中断。継父は関係が悪くなった原因をCSPだと言い、施設にプレッシャーを与えることもあったが、父の思いを丁寧に聞くことを繰り返す中で、施設との信頼関係が築かれた。その結果、父は「母との生活を継続したいが、子どもへの接し方がわからない」と言い、父もCSPを受講することとなった。現在は2回目まで実施。
CSPの結果:
 母は、渡した付録を廊下に貼るなどして、子どもとの関りを意識し出した。またがんばり表も活用している。CSPを実施することで、母との関係が良くなり、引き取り後のフォローアップも出来ている。また、継父と施設の関係も改善されると同時に、現在は父もCSPを受講している。
 
6.5.4 実践報告のまとめ(誌上スーパービジョン)
 今年度は3つの実践報告を聞くことができた。千葉県中央児童相談所の本多氏からは、千葉県におけるCSPの取り組みの現状報告をしていただいた。2007年1月までに、千葉県では60名のトレーナーがおり、49ケースの実践実績があることが報告された。千葉県では、以前からCSPへの取り組みに積極的であったのだが、トレーナーの人数だけではなく、実践の質も、事例が積み上げられる中で向上しているように感じた1。フロアからの「なぜ、そんなにも多くの実践ができているのか」の質問に本多氏は「虐待をする親と援助者との関係が育ってからCSPをするのがよいという意見もあるが、むしろ、CSPをすることによって、関係が構築しやすくなるのでは」また「難しい親こそ、何をしても難しい。それなら形がきちんとあるCSPをしていく方が相手も納得しやすいと感じている」と答えられていた。虐待のケースでは、親から子どもを引き離す等、児童相談所とは対立関係が生じやすいことを考えると、CSPを通して、関係が改善していくことの意味は大きい。発表3の児童養護施設での実践でも、CSPを実践することから親と援助者の関係が良くなったことが報告された。具体的で系統だったプログラムは相手にも理解されやすく、またゴールが明確な分、あなたの家族のために援助しているのだという援助者の思いが伝え易いのではないかと考えられる。そしてそれが関係構築に良い効果をもたらせたのではないのだろうか。日本のCSP実践のフロントランナーである本多氏の発表は、CSP実践の手前で足踏みする多くの実践者を勇気づけるものであった。
 発表2は、虐待が再発してしまったということを考えると、成功事例とは言えないケースであった。体罰を認め、プログラム受講を受け入れる等、改善への期待が持てるケースではあったが、フォローが難しく、虐待の再発を招いてしまった。さらにフォローが難しくなったのは、その後、県外へ転居してしまったことである。時に、CSPのようなプログラムで難しいのは、プログラムを受講したが、しつけといった養育スキルが変化しにくい親である。今回の報告では、虐待の頻度や程度が低くなったので、分離をする必要性はなかったと報告されたが、リスクアセスメントの厳密さをどの程度維持できたのかについては、議論をすべきところであろう。欧米でも、児童虐待のリスクアセスメントでは、自分の担当ケースではリスクアセスメントの基準が低くなるという傾向があると言われる(Tracy & Clark, 1974; Daniel, 2000)。これは援助者が持ってしまう逆転移の問題とも重なるのであるが、客観的にリスクを判断するのは意外にも、難しい。プログラム受講時には、ロールプレイを行っていたようであるが、ロールプレイでは、子どもへ一方的に詰め寄るようなしつけをする等が見られたと報告される等、技法の定着の難しさが考えられるケースであった。CSPで重要なのは、習った技法を家で実行するかである。これは空間的・時間的な般化の問題ではあるが、親のモチベーションや、習った技法で成功体験を導くことができるか等への配慮が必要である。発表2は実践への多くの示唆を与えてくれた事例であった。
 発表3は児童養護施設からのケースである。家庭支援専門相談員が多くの施設で置かれるようになったが、その役割等については、整理されていないのが現状である。その状況の中で、施設の家庭支援専門相談員の援助の可能性について示唆を与えてくれる発表であった。引き取りに向けてのCSPの実施であったのであるが、CSPを実施するために発表者は母親の話しを丁寧に聞いて、母のモチベーションを上げる工夫がなされている。また、継父からの干渉も、継父の思いを受け止めながら、一つひとつ問題解決をしていく中で、継父との関係の構築を行った。そして最後には、継父自身の問題を気づかせ、CSPの実施に至っている。家庭でのしつけは片方の親だけでできるものではない。そこにいる全ての大人が協力してできるものであることを考えると、夫婦の両方がCSPを学ぶ効果は高く、身に付けた養育行動が継続される可能性も高くなる(それはお互いに身に付けたスキルを思い出させる刺激をもらいやすくなるからである)。母の精神疾患、薬物依存傾向とCSPの実施だけで、家族の問題が全て解決できるわけではないであろう。今後も丁寧なフォローアップが求められる事例である。そして、次の課題は援助の終結をどのように行うのかという問題である。関係機関との連携の中で、地域に帰すための資源の整理が求められる。
 
1 2007年発刊の千葉県児童相談所の紀要には、CSPの実践に関する二本の論文が掲載されている。「身体的虐待をしてしまう親へのペアレントトレーニング」(福永彩乃著)・「虐待事例の家庭復帰プログラム作成の試みと検討」(竹下利枝子・西海仁子著)を参照


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