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6.6 報告会の評価
 報告会の修了時に参加者にアンケートを実施し、報告会の評価をしてもらった。残念ながら、参加した全員から回答を得ることはできなかったが、43名がアンケートを提出、回収率は84.3%であった。「実践報告(パネルディスカッション)は満足できる内容でしたか?」の質問には、「どちらかというと満足した」を含めるとアンケートを提出した39名(90.7%)が満足したと答えた。
 自由記述欄を見ると、ポジティブな意見が多かった。以下に書かれた意見のいくつかを簡単に紹介する。
 「実践する意欲が出てきた」「発表はすごくよかったです。感銘し、良い学びになりました。事例良かったです」「色々な取り組みを聞くことができ、参考になりました」「実践報告を聞くことで、どのように使えばよいかのイメージを持てた」「具体的なケースにするとわかりやすい。特にうまくいかなかった部分を話せるのはよかったと思う」「がんばって実践されている方々の話しをうかがうと、自分のモチベーションのアップにつながる」「成功例・失敗例ともに、これから利用させていただきます」「使えるアイデアをいただいた」「一度、虐待のケースにしてみたのですが、うまくいきませんでした。しかし、今回の報告会に参加して、自分の振り返りと今後の課題を考えることができました」「まだ実践はできていないのですが、『こんな効果がある』『こういう風にすればよい』という意見が聞けて、今後活用する上での参考になりました」「報告会に来ると、新しい刺激があり、いつも元気になります」「実際の適用場面での様子、方法等々具体的な話しが聞けて、参考になりました。又、他県の様子が聞けてよかった」「導入の仕方、実施するスタッフの人数、役割や留意点等、具体的な話がきけてよかった」
 
表6-3 報告会参加者の評価
非常に満足した 満足した どちらかというと満足した どちらとも言えない 合計
全体として、この報告会は有意義なものとなりましたか? 16名
(37.2%)
23名
(53.5%)
4名
(9.3%)
0名 43名
パネルディスカッションは満足できる内容でしたか? 18名
(41.9%)
18名
(41.9%)
6名
(14.0%)
1名
(2.3%)
43名
会場はどうでしたか? 12名
(27.9%)
20名
(46.5%)
8名
(18.6%)
3名
(7.0%)
43名
来年度も参加したいですか? はい39名
(90.7%)
いいえ1名
(2.3%)
欠損3名
(7.0%)
注 7段階で評価(7: 非常に満足した、6: 満足した、5: どちらかというと満足した、4: どちらともいえない、3: どちらかというと期待はずれだった、2: 期待はずれだった、1: 非常に期待はずれだった)
 
6.7 まとめ
 今回で実践報告会も3回目になった。実践事例が毎年積み上げられる中で、実践の質が向上していることを感じた。実践報告のまとめ(誌上スーパービジョン)で詳しく述べたが、たくさんの学びの材料が提供されたことに感謝する。今回も、報告会の参加者からの満足度は高く、実践への良い刺激になるとの声が多い。行動心理学のオペラントでは、行動とは刺激・行動・結果の三項随伴性から生じると考える。CSPの実施にも、それを促す先行刺激が必要である。実践への良い刺激を与え続けるためにも、報告会を継続したい。
 
引用文献
Daniel, B. (2000) Judgements about Parenting: What do Social Workers Think They are Doing, Child Abuse Review, 9, 91-107.
Tracy J.J. & Clark, E.H. (1974) Treatment for Child Abusers, Social Work, May, 338-342.
 
7. 総括
 以上、日本財団の支援を受けて神戸少年の町が行った「被虐待児の保護者支援教材普及版の開発および評価」事業の報告を行った。2006年度は「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材普及版の作成」「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座の開催」「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング教材の評価」「実践報告会の開催」の4つの事業を実施した。今年度は3年に渡る事業のまとめとして行ったプログラム評価がそのメインの事業となった。トレーナー養成講座の効果測定と教材の実施状況を調べるという二種類の調査を行った。その二種類の調査の結果は、満足のできる内容であった。
 今回、はじめて計量的な調査方法を用いた効果測定をトレーナー養成講座において実施した。参加者の自信度がトレーナー養成によって上がったかを講座の前後に参加者のセルフエフィカシーを測定することから評価した。その結果、トレーナー養成講座を受けることにより、セルフエフィカシーが上昇していることが示され、養成講座の効果が確認することができた。また、実施状況を調べた調査においても、児童相談所を中心として、全国に実践が広まっていることが示された。また、実施したケースの8割に良い変化があったことが報告された。8割という数字に関しては、米国において行われた調査(半数以下のケースに良い変化が見られる)と比べながら、本編において詳しく考察を行ったが、虐待の親援助・治療そのものの難しさを考えると、一定の評価はできよう。実際に行われたケース数でも3ケースくらいと答えたものが多い等、まだまだ通常業務として提供されるプログラムにはなっていないようであるが、虐待のケースの増加と深刻化の中、親援助・治療への期待は大きい。
 今後に必要なものは、CSPの実践事例を積み上げることと同時に、それら一つひとつのケースにおいて効果測定を行っていく試みである。今回行った実施状況の調査では、実施したケースに対しての評価をしてもらったが、印象を尋ねているにすぎず、その効果の基準については、あいまいである。米国の先行研究を紹介したが、米国においてはプログラムの事例研究ではなく、プログラムの効果の測定を吟味する時代に入っている。そこでは、大量のデータを扱うEBP(Evidence Based Practice)が重視されている。EBPとは証拠に根ざした実践と呼べるものである。ここでは、科学的なデータから実践を選択していくことを特徴としている。科学的な信頼性を上げるため、無作為サンプリングや実験群と非実験群を置く等の厳密な実験計画が重視される。科学性における厳密さばかりを追求していては、実践が進まなくなる危険性もなくはないが、しかしながら、虐待の事例ではEBPで重視するアカウンタビリティは重要である。動機付けのない親、虐待を認知させるところから援助関係を出発しなければならない親に、プログラムの効果を説明する必要性、また効果の上がらないプログラムを続けることへの不信感のある納税者や行政に対しての説明力を上げるためには、効果を科学的に実証したデータが必要である。方法としては、本報告書で実施したトレーナー養成講座の効果測定の技法をそのまま虐待の親講座で使用することができる。全国の実践者とともに、神戸少年の町版CSPの効果測定を行うとともに、これらのデータの蓄積をしたい。
 3年間に渡って日本財団から助成をいただいたおかげもあり、無事日本オリジナルの教材を作成することができた。神戸少年の町の関連施設であるGirls and Boys Townで作成されたCSPという叩き台があったから実現できたものであるが、3年間という時間的な余裕があったので、じっくりとプログラムを開発することができた。改めて、日本財団に感謝する。一年目はニーズ調査を行いながら、作成する教材の方向性を決めていった、また二年目には、実際に教材を作成した。日本において虐待の親援助・治療を目的としたプログラムはいくつかあるが、ビデオやマニュアルまで整備されたプログラムは神戸少年の町版CSPをおいて他にない。教材を作った意義は大きい。そして三年目は普及を目指したマニュアルを整備するとともに、作成した教材の評価を行った。その成果が本報告書である。
 虐待の親援助・治療のニーズは高い。しかし、実施は難しいのである。この難しい課題にどのように向き合っていけばよいのであろうか。児童虐待の撲滅は児童の福祉に貢献する。児童虐待の撲滅を目標にがんばっていきたい。本報告書が、この大きな目標に少しでも貢献するものになることを祈ってこの報告書を締めくくる。


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