4.7.2.4 神戸少年の町版CSPスキルの習得度
CSPスキルの習得度をトレーナー養成講座の前後に実施したプレ・ポストテストで見てみると、講座終了時の得点が高くなった(表4-11・図4-8・図4-9)。また、全てのスキルにおいて、統計的にも5%水準で有意となった。この結果、トレーナー養成講座によって、しつけに必要なスキルを参加者が身に付けたことが示された。
表4-11 
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神戸少年の町版CSPスキルの習得度の得点とt検定の結果
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項目 |
プレ |
ポスト |
t値 |
自由度 |
有意確立(両側) |
わかりやすいコミュニケーション |
8.73 |
10.17 |
6.81 |
59 |
0.000 |
良い結果・悪い結果 |
8.95 |
10.13 |
6.87 |
59 |
0.000 |
効果的な誉め方 |
9.85 |
10.53 |
2.20 |
59 |
0.032 |
予防的教育法 |
7.88 |
9.87 |
7.67 |
59 |
0.000 |
問題行動を正す教育法 |
7.92 |
9.53 |
7.80 |
59 |
0.000 |
自分自身をコントロールする教育法 |
8.15 |
10.03 |
7.92 |
59 |
0.000 |
合計得点 |
51.48 |
60.27 |
8.99 |
59 |
0.000 |
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図4-8 
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神戸少年の町版CSPスキルの習得度のプレ・ポストテストレーダーチャート
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図4-9 
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神戸少年の町版CSPスキルの習得度合計得点のプレ・ポストテスト
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CSPのスキル
4.7.2.5 神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座クラス評価
講座の終了時に参加者にアンケートを実施し、講座の評価をしてもらった。その結果、「コモンセンス・ペアレンティングの講座はあなたが援助者(支援者)として、親を教育するのに有益なものとなりましたか?」の質問には「どちらかというと満足した」を含めると全参加者が満足したと答えた。講座の内容の適切さについても全員の方が「満足した」と答えている。講師への評価も満足度が高かった。また、「他の職員にこの講座をすすめることができますか?」の問いに全員が「はい」と答えた。
有効性を、参加者の親支援へのセルフエフィカシーを自信ということから見ると(問いは、「この講座はあなたに自信をもたらせましたか?」)、5名がどちらとも言えないと答えた以外は「どちらかというと満足した」を含めると、59名中54名が「満足した」と答えており、親支援への自信を多くの参加者が得る機会となったことが示された。
表4-12 専門職講座参加者の評価
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非常に満足した |
満足した |
どちらかというと満足した |
どちらとも言えない |
合計 |
コモンセンス・ペアレンティングの講座はあなたが援助者(支援者)として、親を教育するのに有益なものとなりましたか? |
25名
(42.4%) |
29名
(49.2%) |
5名
(8.5%) |
0名 |
59名 |
講座の内容は適切でしたか? |
24名
(40.7%) |
30名
(50.8%) |
5名
(8.5%) |
0名 |
59名 |
講師はあなたの質問に適切に答えてくれましたか? |
24名
(40.7%) |
26名
(44.1%) |
5名
(8.5%) |
4名
(6.8%) |
59名 |
講師は親をどう教育していくのかに有用になるような例をたくさんあなたに話してくれましたか? |
26名
(44.1%) |
28名
(47.5%) |
5名
(8.5%) |
0名 |
59名 |
この講座はあなたに自信をもたらせましたか? |
10名
(16.9%) |
22名
(37.3%) |
22名
(37.3%) |
5名
(8.5%) |
59名 |
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注 7段階で評価(7: 非常に満足した、6: 満足した、5: どちらかというと満足した、4: どちらともいえない、3: どちらかというと期待はずれだった、2: 期待はずれだった、1: 非常に期待はずれだった)
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講座は講義、ロールプレイ、ディスカッション、ビデオ、宿題といった5つのアクティビティから成り立っている。どのアクティビティが有効であったのかを参加者に尋ねたところ、以下のような結果になった(表4-13参照)。
結果を見ると、ロールプレイの重要性が参加者から支持される傾向にあった(94.9%)。多くがロールプレイをすることで、知識の定着や、自分のできないところのチェックに役立ったと答えていた。また、ビデオヘの満足度が62.7%と高くなった。
表4-13 講座のアクティビティの有効性
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講義 |
ロールプレイ |
ディスカッション |
ビデオ |
宿題 |
(59名中) |
29名
(49.2%) |
56名
(94.9%) |
24名
(40.7%) |
37名
(62.7%) |
13名
(22%) |
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神戸少年の町版CSPでは以下の6つのプログラムを行い、それぞれのしつけのスキルを教示する。そこで、参加者にそれぞれのスキルの有効性を尋ねたところ、以下のような結果となった。「効果的な誉め方」(74.6%)、「自分自身をコントロールする教育法」(64.4%)「予防的教育法」(55.9%)の3つの有効性が高く評価された。
表4-14 スキルの有効性
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わかりやすいコミュニケーション |
良い結果悪い結果 |
効果的な誉め方 |
予防的教育法 |
問題行動を正す教育法 |
自分自身をコントロールする教育法 |
(59名中) |
27名
(45.8%) |
26名
(44.1%) |
44名
(74.6%) |
33名
(55.9%) |
29名
(49.2%) |
38名
(64.4%) |
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次に、スキルの使いやすさを尋ねた。使いやすいスキルとしては、「効果的な誉め方」(71.2%)・「予防的教育法」(66.1%)の二つが上がった。有効性のあるスキルとしては、「自分自身をコントロールする教育法」が上がったが、使いやすさという面では33.9%となった。スキルのステップが長いことがその原因としては考えられる。
表4-15 スキルの使いやすさ
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わかりやすいコミュニケーション |
良い結果悪い結果 |
効果的な誉め方 |
予防的教育法 |
問題行動を正す教育法 |
自分自身をコントロールする教育法 |
(59名中) |
18名
(30.5%) |
14名
(23.7%) |
42名
(71.2%) |
39名
(66.1%) |
21名
(35.6%) |
20名
(33.9%) |
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神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座を開催し、60名の専門職をトレーニングする機会を持った。CSPのトレーナー養成は2003年から行っているが、今回はじめて数量的データを使った評価を行った。本調査では、トレーナー養成講座の参加者の児童虐待ケース対応へのセルフエフィカシーの変化から養成講座の効果測定を行った。セルフエフィカシーに注目したのは、セルフエフィカシーとは行動の遂行への自己効力感であり、セルフエフィカシーが向上すれば、CSPを遂行する可能性が高まり、専門性の向上といった養成講座の効果を評価できうると考えたからである。プレ・ポストテストの結果では、「児童虐待ケースへの対応に関するセルフエフィカシー尺度」「虐待対応への自信度尺度」「一般性セルフエフィカシー尺度」において、養成講座の前後でセルフエフィカシーが向上したことが示された。また、養成講座のクラス評価でも高い満足度が得られた。これらの結果から、神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座が児童虐待のケース対応(特に親支援)を行う専門職のトレーニングに効果があることが示された。
今回、トレーナー養成講座によってセルフエフィカシーが高くなった要因にはいくつかのことが考えられる。ひとつはトレーナー養成講座がビデオによるモデリングやロールプレイといった経験的学習を重視しており、セルフエフィカシーに影響を与える代理的経験(Bandura, 1997: 坂野, 2002)ができる場になっていることがあげられる。代理的経験とは、実際の場面ではないが、それによく似た場面を経験し、そこから成功体験を得る経験である。代理的経験であっても、そこからもたらされる成功体験は参加者の自己効力感を高めることが期待されるのである。一般的にセルフエフィカシーを高めるものとしては代理的経験以外に、遂行行動の達成、言語的説得、情動的喚起というものがある(表4-16参照)。トレーナー養成講座では、最終日に、CSPの模擬セッションをデモンストレーションしてもらっているが、そこでの経験、そして課題を遂行したといった達成感、そしてそこから喚起される喜びといった情動的喚起が参加者のセルフエフィカシーに良い影響を与えているのであろう。実際に、参加者は神戸少年の町版CSPスキルを習得したと感じており(表4-11・図4-8・図4-9)、これらの具体的なスキルを身に付けたという達成感がポジティブな変化を生み出したと考えられる。
表4-16 
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セルフエフィカシーに影響を与える4つの要因(坂野、2002を参考に筆者が作成)
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代理的経験 |
他人の行動を観察すること
(ビデオ等によるモデリング学習やイメージトレーニング) |
遂行行動の達成 |
振る舞いを実際に行い、成功体験を得ること
(参加モデリングや現実脱感作法等) |
言語的説得 |
自己強化や他者からの説得的な暗示
(心理教育的セッション等の説明的な介入) |
情動的喚起 |
生理的な反応の変化を体験してみること
(イメージ・エクスポージャーやバイオフィードバック) |
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神戸少年の町版CSPのプログラムは親に望ましいしつけのスキルを身に付けさせることにより、虐待を止めようというプログラムである。ここでは子どもの問題行動といったストレスの高い状況に対処するスキルを身に付けさせることによって、ストレスを軽減し、親に育児への肯定的認知をもたらせることを目的としている。野口(2006)が育児困難感を持つ親グループにCSPを実施した際に行った調査では、親の育児困難感や子どもの問題行動が講座の前後で軽減したことが示され、養育スキルの教育を行うことの効果が見られた。足達ら(2000)が健常児を持つ親への育児ストレスに関する調査から「親にとって関心の高い時期にしつけの方法としての養育スキルの教育を行うことは、受け入れやすく効果的」と考えられると言っているが、育児困難感を抱き、なんとかしたいと思う母親は育児への関心が高いと考えられ、養育スキルを必要としており、それらの体得が良い効果をもたらせたと考えられる。これらの効果と同じ効果がトレーナー養成講座でも起こったと考えられる。虐待対応は難しく、非常にストレスが高い。そして対処には高いスキルが求められるのである。これらのことを考えると、経験的学習を重視したスキル重視のプログラムであるトレーナー養成講座は虐待に直接関わる専門職の関心が高いところであり、また受け入れやすく効果的であったのであろう。
しかし、次の課題がある。それは講座終了時の高いセルフエフィカシーが維持されるのかという問題、つまりは時間的な般化の問題である。一般的に、ペアレント・トレーニングでは、集団での実施は個別での実施に比べ、効果の維持において劣るという報告がある(免田ら、1995)。参加者のフォローアップが課題である。神戸少年の町では、本報告書の6章で紹介しているような報告会を実施してきたが、こういった取り組みが必要なのであろう。次の5章で、実施状況について詳しく記述するが、トレーナー養成講座の修了者の36%がCSPを実施したと報告された。児童相談所を中心として、CSPは拡がっている。トレーナーの更なる養成と同時に、講座のフォローアップをしっかりと行いたい。
引用文献
足達淑子、温泉美雪、曳野晃子、武田和子、山上敏子(2000)「1歳6か月児の母親の養育行動−質問票調査からみた具体的行動、育児ストレス、認知の関係について−」『行動療法研究』第26巻第2号、69-81.
Bandura, A.(1985)「自己効力(セルフ・エフィカシー)の探求」 祐宗省三ほか(編著)『社会的学習理論の新展開』金子書房pp.103-141.
原佳央理(未発表論文)「児童虐待ケースヘの対応に関する課題特異的セルフ・エフィカシー尺度」
恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所編(2005)『子どもの虐待対応の手引き』有斐閣.
厚生労働省雇用均等・児童家庭局(2005)『児童相談所運営指針』厚生労働省雇用均等・児童家庭局発第0214003号.
免田賢、伊藤啓介、大隈紘子、中野俊明、陣内咲子、温泉美雪、福田恭介、山上敏子(1995)「精神遅滞児の親訓練プログラムの開発とその効果に関する研究」『行動療法研究』、第21巻第2号、25-37.
野口啓示(2006)「被虐待児のペアレント・トレーニング教材(神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング:CSP)の開発とその効果に関する研究」『第7回日本子ども家庭福祉学会学会報告要旨集』45-46.
坂野雄二・東條光彦(1986)「一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み」『行動療法研究』第12巻、73-82.
坂野雄二(2002)「人間行動とセルフ・エフィカシー」阪野雄二・前田基成(編著)『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』北大路書房pp.2-11.
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