4. 神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座の開催事業報告
児童虐待に直接関わる専門職を対象に神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング(CSP)トレーナー養成講座を開催した。
対象を児童虐待に直接関わる専門職60名とし、講座を4回開催した。募集の方法は、全国の児童養護施設(551ヵ所)・児童相談所(177ヶ所)・情緒障害児短期治療施設(19ヵ所)・乳児院(113ヶ所)に専門職講座のパンフレットを送付した。6月の第2週に送付し、受付を開始した。全国から100件以上の問い合わせと94名の申し込みがあった。なお選考に関しては、児童虐待に直接関わる機関の職員であることを必須とし、職歴と実施計画を参考にした。
4回の専門職講座を以下の日程で行った。会場は神戸少年の町の会議室であった。講座の合間に、神戸少年の町の児童養護施設・乳児院・家庭支援センターの見学を行った。
表4-1 専門職講座の日時
第1回 |
2006年8月31日(木)〜9月3日(日) |
第2回 |
2006年10月5日(木)〜8日(日) |
第3回 |
2006年11月10日(金)〜13日(月) |
第4回 |
2007年1月8日(祝)〜11日(木) |
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アメリカのボーイズタウンにて、CSPのトレーナーの資格を取得しトレーナー養成の許可を持つ神戸少年の町の児童指導員の野口啓示が務めた。また、野口は神戸少年の町版CSPのプログラム開発者でもある。
参加費として参加者から1人、15,000円ずつ集めた。参加費に教材費(トレーニング・マニュアル、ビデオ、付属品(カード・修了証・バック)、資料が含まれた。
4.5.1 所属機関
参加者の所属機関としては表4-2のとおりである。児童相談所が42名と一番多かった。次に家庭支援専門相談員が配置された児童養護施設の7名であった。
表4-2 所属機関
児童相談所 |
42名 |
児童養護施設 |
7名 |
保健所 |
2名 |
家庭支援センター |
2名 |
病院 |
2名 |
情緒障害児短期治療施設 |
2名 |
教育機関 |
2名 |
乳児院 |
1名 |
合計 |
60名 |
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参加者の機関が位置する都道府県の内訳は表4-3のとおりである。近畿圏からの参加が多いが、全国から参加者がある。
職種に関しては表4-4のとおりである。
職歴に関しては表4-5のとおりである。
表4-3 都道府県
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都道府県 |
人数 |
合計 |
北海道
東北 |
福島県 |
3名 |
7名 |
青森県 |
2名 |
北海道 |
1名 |
山形県 |
1名 |
関東 |
神奈川県 |
5名 |
8名 |
千葉県 |
2名 |
群馬県 |
1名 |
東海 |
愛知県 |
4名 |
9名 |
静岡県 |
3名 |
岐阜県 |
2名 |
近畿 |
大阪府 |
11名 |
25名 |
滋賀県 |
6名 |
兵庫県 |
3名 |
三重県 |
3名 |
和歌山県 |
1名 |
奈良県 |
1名 |
中国 |
鳥取県 |
5名 |
8名 |
島根県 |
2名 |
広島県 |
1名 |
九州 |
長崎県 |
2名 |
3名 |
沖縄県 |
1名 |
合計 |
60名 |
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表4-4 職種
児童心理司 |
23名 |
児童福祉司 |
15名 |
児童指導員(主任・家庭支援専門相談員含む) |
7名 |
保育士(主任含む) |
5名 |
保健師 |
4名 |
心理士 |
2名 |
相談員 |
2名 |
その他 |
2名 |
合計 |
60名 |
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表4-5 職歴
3年未満 |
22名 |
4〜5年 |
4名 |
6〜10年 |
20名 |
11〜15年 |
6名 |
16〜20年 |
2名 |
21年以上 |
5名 |
合計 |
60名 |
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親支援や親訓練といった研修への参加の有無を尋ねた(表4-6)。60名中46名が無いと答えた。親支援の必要性に比べて、参加する研修会の少なさが示された。なお14名に関しては、サインズ・オブ・セーフティ、ADHDのペアレント・トレーニング、国立精研式のペアレント・トレーニング、スターペアレンティング、家族療法等が上がった。
表4-6 親支援や親訓練の研修への参加経験の有無
専門職講座のスケジュールを表4-7に示した。4日間で25時間のトレーニングである。トレーニングは、講義、ロールプレイ、ディスカッション、ビデオによるモデリング、そして宿題から成る5つのアクティビティで構成されており、経験的学習の機会になるようになっている。参加者は講義中も、自由に質問や発言ができるようになっており、受身的な学習にならないように工夫されている。前半の2日間はCSPの理解に当てられており、CSPの講座を実際に受講してもらった。ここでは専門職というより、CSPを受講する父親・母親の役割を取りながら、実際の講義を体験するのが目的である。後半の2日間は、前半に習ったCSPの講座を専門職として運用する方法を講義した。子どもの問題を子どもの行動と親の反応から理解していく行動分析の方法やうまくロールプレイを行う方法を教示するとともに、実際にロールプレイを繰り返し行ってもらい身に付けてもらった。最終日はデモンストレーションとして、模擬セッションを自らがトレーナーとなり、他の参加者を相手に行い修了となった。ロールプレイ、デモンストレーション等、頭で理解するだけなく、実際にやってみる参加型の講義により、実践力を身に付ける講座になっている。
表4-7  |
少年の町コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座スケジュール |
1日目
(1時〜6時) |
2日目
(9時〜6時) |
3日目
(9時〜6時) |
4日目
(9時〜12時) |
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効果的な誉め方 |
まとめ |
デモンストレーション(模擬セッションを行い、トレーナーの役割をデモンストレーションしていただきます) |
予防的教育法 |
セッションの技能(行動分析) |
イントロダクション
1時〜 |
昼食
12時〜1時 |
昼食
12時〜1時 |
解散
12時 |
教育者としての親(わかりやすいコミュニケーション良い結果・悪い結果) |
問題行動を正す教育法 |
ロールプレイの進めかた |
自分自身をコントロールする教育法 |
ロールプレイの練習 |
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4.7.1 評価の方法
神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座の評価を目的として、プレ・ポストテストを実施した。プレ・ポストテストとは、調べたいものの効果を評価するために、その調べたいものを行う前後に、同一のテストを実施し、その変化を測定し、調べたいものの効果を確かめるテストである。ここでは、参加者の児童虐待ケースヘの対応へのセルフエフィカシー(自己効力感)を講座の前後に測定することから効果を測定した。セルフエフィカシーとは、ある行動を起こす前にその個人が感じる「遂行可能感」、自分自身がやりたいと思っていることの実現可能性に関する知識、あるいは、自分にはこのようなことがここまでできるのだという考えであり、セルフエフィカシーが高いとそれだけ自信も高く、遂行の可能性が高くなると考えられている(Bandura, 1985)。セルフエフィカシーにはある特定の場面で遂行される特定の行動に影響を及ぼす課題特異的セルフエフィカシーと特定の場面に限定されることのない日常生活全般における行動に影響を及ぼす一般的セルフエフィカシーがあり、この両方を測定することが望ましいとされる。本調査では、神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座のゴールが児童虐待の親支援を遂行することであることから、課題特異的セルフエフィカシーとして「児童虐待ケースヘの対応に関するセルフエフィカシー尺度」と「虐待対応への自信度尺度」、そして一般的セルフエフィカシーとして「一般性セルフエフィカシー尺度」を使って、参加者のセルフエフィカシーの変化を測定した。
これらのプレ・ポストテストとともに、神戸少年の町版CSPスキルの習得度を講座の前後に、そして、講座への満足度調査を講座の終了時に行った。
4.7.1.1 児童虐待ケースヘの対応に関するセルフエフィカシー尺度
児童虐待ケースヘの対応に関するセルフエフィカシー尺度(原、未発表)は、特定の行動、ここでは児童虐待ケースヘの対応といった課題特異的なセルフエフィカシーを測定する尺度である。子どもの虐待対応の手引きと児童相談所運営指針を参考に、児童虐待ケースヘの対応に必要な13のモジュールヘのセルフエフィカシーを測定するようになっている。13のモジュールは「子どもの虐待とその援助」「基本的態度とコミュニケーション」「権利擁護」「関係機関との連携」「リスクアセスメント」「相談の受付・調査」「一時保護」「立入調査」「強引な引き取り」「診断・判定・援助」「28条申立」「家庭復帰」「終結」であり、これらのモジュールを21項目から測定する。例えば、「基本的態度とコミュニケーション」では、「ワーカーとして適切な関係を保護者と築くことができる」という項目を「あてはまる」「どちらからというとあてはまる」「どちらかというとあてはまらない」「あてはまらない」の4件法で測定する。
虐待対応への自信度をパーセントで尋ねた。ここでは、虐待ケースヘの対応における自信度について、「あなたは虐待ケースにどれほどうまく対応ができると思いますか。『十分に自信がある』を100%、『全く自信がない』を0%としたとき、今の自信の程度はおよそ何%くらいですか」という質問を用いた。
参加者が一般的にセルフエフィカシーをどの程度高くあるいは低く認知する傾向にあるかを測定するために坂野・東條(1986)が作成した一般性セルフエフィカシー尺度を用いた。一般性セルフエフィカシー尺度は、セルフエフィカシーが高く認知されたときの行動特徴が含まれる16の質問項目からなる尺度である。3つの因子から構成されている。「行動の積極性」7項目、「失敗に対する不安」5項目、「能力の社会的位置づけ」4項目の16項目から成り、「あてはまる」「どちらからというとあてはまる」「どちらかというとあてはまらない」「あてはまらない」の4件法で測定した。
4.7.1.4 神戸少年の町版CSPスキルの習得度測定尺度
CSPのスキルの習得度を測定する尺度である。CSPの各プログラムで習うしつけのスキルの習得度を参加者自身で自己評価する。各プログラムにつき3つの質問項目があり、全体では18項目になる。「うまくできる」「できることもある」「うまくできない」「できない」の4件法で測定する。
4.7.1.5 神戸少年の町版CSPトレーナー養成講座クラス評価
クラス評価に用いた調査票はCSPを開発した米国のGirls and Boys Townで使用しているものを翻訳した。教材やプログラム内容への満足度を7段階で評価するようになっている。また、CSPのスキルや養成講座のトレーニング方法についても評価してもらった。
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