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3)効果的な誉め方
 効果的な誉め方では、子どもの望ましい行動を増やすために、どのように子どもを効果的に誉めていけばよいのかを1)賞賛、2)望ましい行動の表現、3)理由の説明、4)良い結果というステップから説明する。
 神戸少年の町版では、子どもを日常的に叩くほど、親子関係に葛藤を抱えることが多いことを考慮し、心から誉められなくても大丈夫、誉めるふりからでも、親子関係を変える力があると保障するのと同時に、「誉められなければ、認めることから始めましょう」と誉める行動を再定義した。
 
4)予防的教育法
 予防的教育法では、子どもに前もって言ってきかせる方法の学習を行う。1)説明、2)理由、3)練習の3つのステップを踏みながら、子どもにわかりやすく親の期待を伝える方法を学習する。
 神戸少年の町版では、「予防的教育法」のモジュールのほか、「落ち着くヒント」「子どもの発達と親の期待」のモジュールを取り込んだ構成にした。練習のステップでは、リハーサルの効果だけでなく、親が子どもの成長と理解を確かめる機会となることを解説できるようにした。また、後半に「落ち着くヒント」を取り上げた。
 
 
5)問題行動を正す教育法
 子どもの問題行動に介入するスキルの体得を目指すプログラムである。問題行動に穏やかに介入し、問題行動に変わりうる社会的に望ましい行動を教える方法を教示するプログラムである。1)問題をやめさせる、2)悪い結果を与える、3)子どもにして欲しいことを説明する、4)子どもにして欲しいことを練習させる、という4つのステップから成る。
 神戸少年の町版の問題行動を正す教育法では、教え、そして誉めるという肯定的しつけのプロセスがクローズアップされるようにした。また、予防的教育法と同様に、再び練習の大切さを強調し、「子どもの発達と親の期待」のモジュールを紹介し、親の認知的なひずみにも介入できるようにした。
 
6)自分自身をコントロールする教育法
 自分自身をコントロールする教育法は、子どもが感情的になって、親に反抗したり、泣き叫んだりするような緊張感が高い状況への対処を考えていくプログラムである。これまでに学習したしつけのスキルを使いながら、具体的な介入プランを作成する。緊張感が高い場面で親子ともに落ち着く方法を身に付けることと、同じような状況にならないためにはどのようなことができるのかを子どもに教えるスキルの体得が目的である。怒りのコントロール訓練で使われるものを、普段に取り入れられるように練習をしていく。ステップは深呼吸等の落ち着くための行動を親が行う「まずは落ち着くステップ」と子どもに怒りのコントロールの方法を教える「フォローアップの教育のステップ」の二つのステップから構成されている。
 
3.4 まとめ
 以上、神戸少年の町版CSP教材普及版作成の報告を行った。米国の先行研究のレビューから得られた知見を整理するとともに、それらの知見を土台として、神戸少年の町版を作成したことを報告した。今回のプログラム作成では、実証性を重視した。CSPの理論が行動心理学に置いていることもあるが、虐待の援助では、この実証性が重要であると考えている。それは、虐待の援助では、専門職に求められるアカウンタビリティが高いからである。動機付けのない親、虐待を認知させるところから援助関係を出発しなければならない親に、プログラムの効果を説明する必要性、また効果の上がらないプログラムを続けることへの不信感のある納税者や行政に対しての説明力を上げるためには、効果を科学的に実証したデータが必要である。米国では、時間的な制約や即効性から行動療法的アプローチが好まれるようになったと整理したが、もう一つの側面である実証性というものも重要である。どのようなプログラムを用いるべきかの議論が単に理論的な論争にならないよう、この実証性というものを重視していきたい。
 
引用文献
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