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船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第9報)
―腐食ピットが発生している鋼板の最終強度評価法の提案―
 
正員 中井達郎*  正員 松下久雄*
正員 山本規雄*
 
* (財)日本海事協会 技術研究所
原稿受理 平成17年10月12日
 
Effect of Corrosion on Static Strength of Hull Structural Members (9th Report)
 
by Tatsuro Nakai, Member
Hisao Matsushita, Member
Norio Yamamoto, Member
 
Summary
 The aim of this research project is to establish a method of evaluating the effect of pitting corrosion with a circular cone shape on local strength of hold frames of bulk carriers. In the present study, an empirical formula for predicting ultimate strength of plates with pitting corrosion is proposed based on the results of FE analyses with pitted plates under uni-axial compression. In the formula, equivalent thickness for ultimate strength of pitted plates is expressed as a function of DOP (degree of pitting intensity), pit diameter and original thickness of pitted plates. Equivalent thickness predicted by the proposed formula has been compared with the results of FE analyses with pitted plates under various loading conditions and it has been revealed that the proposed formula could well predict the equivalent thickness for ultimate strength of pitted plates under uni-axial compression, shear, bi-axial compression, combined uni-axial compression and shear, combined bi-axial compression and shear, in-plane bend and combined in-plane bend and compression.
 
1. 緒言
 本研究は、石炭と鉄鉱石を運搬するばら積み貨物船の腐食ピットが発生している構造部材の局部強度の評価法確立を目的として実施している[1]-[14]。上記のばら積み貨物船の倉内肋骨に発生している典型的な腐食ピットは円錐形であり、その直径と深さの比は8:1〜10:1の範囲にある[1]-[5]。IACS統一規則S-31[15]で、腐食ピットが発生している場合を含めた倉内肋骨の切替え基準が規定されているものの、腐食ピットの程度と残存強度の関係について十分に明らかにされているとは言えない状況にある。腐食ピットが発生している船体構造部材の強度に関する研究例は文献[16]-[19]などに見られるが、そのほとんどは深さ一定(円筒形、あるいは直方体)の腐食ピットを仮定しており、部材強度に及ぼす円錐形の腐食ピットの影響について検討した例[20]は少ないようである。本研究では、上記のような円錐形の腐食ピットが部材強度に及ぼす影響について系統的に検討を進めている。これまでに、1)腐食の実態調査[1]-[5]、2)腐食ピットが発生している板要素の強度調査[1]-[5]、3)構造強度に及ぼす腐食ピットの影響調査[5]-[11]を実施してきた。さらに、前報[14]では、円錐形の模擬腐食ピットを設けた試験片を用いた引張試験結果に基づき、円錐形の腐食ピットが発生している部材の引張強度評価式を提案した。
 大型ばら積み貨物船の倉内肋骨ウェブは、船側外板やフェイスと比較して板厚が小さく腐食の影響が最も大きい[21]。したがって、倉内肋骨ウェブの強度に及ぼす腐食ピットの影響について評価方法を確立することが急務である。そこで、本報では、過去に実施したFEMを用いた弾塑性大たわみ解析結果[12]をもとに、大型ばら積み貨物船の倉内肋骨ウェブと同程度の板厚・板幅をもつ板を対象として、円錐形の腐食ピットが発生している鋼板の圧縮最終強度に対する等価板厚評価式を提案する。ここで、等価板厚とは、腐食ピットが発生している部材と同等の強度をもつ、一様衰耗(板厚一定で衰耗が進むと仮定した場合)の部材の板厚である。さらに、純せん断、2軸圧縮、1軸圧縮とせん断の組合せ荷重、2軸圧縮とせん断の組合せ荷重、面内曲げ、及び、面内曲げと圧縮の組合せ荷重を受ける円錐形の腐食ピットが発生している鋼板のFEMを用いた弾塑性大たわみ解析を実施し、その結果得られた最終強度に対応する等価板厚を評価することにより、各荷重条件に対する提案式の適用性について検討する。本研究の最終目的は、実部材のように異なる直径の腐食ピットがランダムに分布する場合に対して適用可能な評価式を確立し、実際の切替え基準検討のための基礎データとすることにあるが、本論文では、まず基本的な場合として、直径一定のピットが規則的に分布する場合について検討した。
 
2. 解析対象および解析手法
 本章では、円錐形の腐食ピットの発生している鋼板の最終強度をFEMを用いた弾塑性大たわみ解析により計算する際の解析対象や腐食ピットの形状モデリング方法について述べる。
2.1 解析対象
 大型ばら積み貨物船の倉内肋骨ウェブと同程度の板厚・板幅をもつ、円錐形の腐食ピットが発生している正方形板を対象として、FEMを用いた弾塑性大たわみ解析を実施した。解析コードはMSC.Marcを用い、要素には4節点厚肉シェル要素(Element Type 75)を用いた。
 
Fig. 1 Square plate under combined loads
 
Fig. 2  Square plate under bending moment and compressive load
 
Fig. 3  Boundary conditions for square plate under shear
 
Fig. 4  Example of pit distribution in FE analysis (Type Aj)
 
Fig. 5  Example of pit distribution in FE analysis (Type Bk)
 
 解析対象モデルは、Fig. 1に示す1軸圧縮、2軸圧縮、純せん断、1軸圧縮とせん断の組合せ荷重、及び、2軸圧縮とせん断の組合せ荷重を受ける正方形板とFig. 2に示す面内曲げ、及び、面内曲げと圧縮の組合せ荷重を受ける正方形板で、長さa=450mm、幅b=450mm、板厚t=10、13及び16mmとし、腐食ピットの直径と分布を変化させて解析を実施した。上記の正方形板の幅と板厚は、大型ばら積み貨物船の倉内肋骨ウェブの深さと板厚を考慮して決定したものである。
 境界条件は、面外変位については全てのモデルで周辺単純支持とし、面内変位については、面内曲げ及び面内曲げと圧縮の組合せ荷重を受けるモデルを除き、周辺が直線を保持しながら変位するという条件を設けた。面内曲げ及び面内曲げと圧縮の組合せ荷重を受けるモデルでは、載荷辺は直線を保持して変位するものとし、非載荷辺は面内変位を拘束していない。また、純せん断、1軸圧縮とせん断の組合せ荷重、及び、2軸圧縮とせん断の組合せ荷重を受けるモデルにおいて、面内せん断力を導入するにあたっては、既報[12]と同様に文献[22]-[24]を参考にして、Fig. 3のような境界条件とともに、下式で表される拘束条件を与えた。
 
 
 
 ここで、u、vは、それぞれx、y方向変位であり、添え字のB及びDは、それぞれ点B及びDにおける変位であることを示す。Fig. 3において、純せん断の場合には点BにPByを負荷し、1軸圧縮とせん断の組合せ荷重の場合には点BにPBxとPByを負荷し、2軸圧縮とせん断の組合せ荷重の場合には点BにPBxとPByを、点DにPDyを負荷した。
 本研究で取り扱う腐食ピットの形状は円錐形である。石炭と鉄鉱石を運搬する大型ばら積み貨物船の倉内肋骨に見られる典型的な腐食ピットは円錐形であり、その直径と深さの比は8:1〜10:1程度の範囲にある[1]-[5]。ここでは、より厳しい条件すなわち同じ直径に対してより深い腐食ピットを想定して直径と深さの比は8:1とし、その直径は20、30あるいは40mmで一定とした。腐食ピットの分布例をFig. 4及びFig. 5に示す。以上のように、解析対象モデルは腐食ピットの直径とその分布、及び、板厚を主なパラメータとしており、以下のように表記するものとする。
 
Aj-D あるいは Bk-D
 
Aj-D: Fig. 4に示すように、ピットを格子状に板の両面の同じ位置に配置し、全てのピットの直径を同じにしたもの。
Bk-D: Fig. 5に示すように、ピットを格子状に配置するとともに、正方形をなす4つの格子点の中間部にもピットを配置したもの。板の両面の同じ位置に配置し、全てのピットの直径を同じにしている。
 ここで、j及びkは、それぞれFig. 4及びFig. 5に示す位置の腐食ピットの個数である。Dは腐食ピットの直径(D=20、30または40)である。
 一般に、工作時に生じる溶接変形などの初期不整の分布は複雑であると言われている。本解析は、最終強度に及ぼす腐食ピットの影響について調査することを主目的としているため、初期不整は下式に示す単純なたわみ波形を仮定した。
 
 
 ここで、w0は元厚(腐食ピットが発生する前の板厚)t0の1/l00とした。なお、溶接残留応力は考慮していない。
 材料は、YP32鋼を想定して、ヤング率Eは205.8GPa、降伏応力σYは313.6MPaとし、加工硬化率H'はE/75と仮定した。
2.2 腐食ピットのモデリング
 腐食ピットをモデリングするためには、細かいメッシュを使用する必要があり、正方形板の幅方向、長さ方向ともに75分割した。すなわち、個々の要素な一辺の長さが6mmの正方形である。腐食ピットの位置と直径、直径と深さの比、及び、ピット形状が円錐形であることから各節点における板厚を求め、各要素を構成する節点における板厚の平均値をその要素の板厚とした。上記のモデリング手法は、既報[12],[13]で用いたものと同様であり、限られた条件下のみではあるが、ソリッド要素を用いて個々の腐食ピットをモデリングした場合とほぼ同様の解析結果が得られることを確認している[12],[13]


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