4. FEM解析
前報2)の小型構造モデル試験体ウェブの応力分布と今回のT字型試験体ウェブの応力分布を求め実験結果を比較検討するために、FEM解析を行った。また、前報2)で検討した中型試験体について、今回さらに溝部分の板厚が減少した場合の最終強度に及ぼす溝形状の影響を明らかにするために、FEM解析を追加実施した。
4.1 小型試験体
Fig. 10にT字型試験体の解析モデルを示す。代表的な試験体の弾塑性大たわみ解析を行い、応力分布を求めた。初期設計時を考え、溝を設けていない小型構造試験体の応力分布を求めた。前報2)と同様、解析コードはMSC.Marc、要素は四節点厚肉シェル要素(Element Type 75)である。解析に用いた材料定数をTable 5に示す。初期不整、溶接残留応力は考慮していない。Fig. 11に、垂直応力分布(X方向及びY方向)を示す。これらから、前報2)の小型構造モデル(Fig. 12参照)の場合の垂直応力分布(X方向及びY方向)(Fig. 13参照)と同様に、2点の荷重点間に大きな圧縮応力が発生していることが分かる。尚、今回の試験体でのX方向応力分布の圧縮応力側の領域は、小型構造試験体の場合よりもウェブ板の長手方向に大きく広がっている。また、荷重点の反対側にあたるウェブ板のフェイス側では、引張のX方向垂直応力が発生していることから最大荷重に対するフェイス形状による影響は少なかったものと考えられる。
Table 5 Mechanical Properties of Testes Steel
Thickness (mm) |
Young's Modulus E (GPa) |
Yield Point (MPa) |
Work Hardening Modulus |
6 |
205.8 |
404 |
E/85 |
19 |
205.8 |
346 |
E/70 |
|
Fig. 10 FEM Model of T-Shape Specimen
Fig. 11 |
Perpendicular stress distribution
(T-Shape Specimen, Web plate) |
Fig. 12 FEM Model of Small Model Specimen2)
Fig. 13 |
Perpendicular stress distribution at max. load (Small Model Specimen, Web plate)2) |
4.2 中型試験体
断面形状を小型構造試験体と同じにして(Fig. 1 参照)、試験体を長くした中型構造試験体の場合(2点の荷重点間を1000mm、2点の支点間を3000mm)、
(1)大きな曲げ圧縮応力領域は荷重点近傍にしか発生しない。
(2)全体が一様に曲げ変形していき面外横変形は見られない。
(3)溝部分が塑性変形できるため、ウェブ板は一様に塑性変形していくことから、溝の影響は少ない。
等が分かっている2)が、今回、さらに、溝部分の板厚が減少した場合についてFEM解析を行い調査した。解析モデル、解析条件は前報2)と同じとした。その結果を、実験結果2)と共に、Table 6に示す。ここで、比較には、一例として、荷重点変位(HL)が60mmでの荷重P(HL60)を用いた。Table 6から、“ウェブ鋼板板厚が元板厚の33%で溝幅が元板厚の5倍程度まで”は、ほとんど最大荷重に及ぼす溝形状の影響が見られないことが分かる。
Table 6 Test and FEM results of Long Model Specimens
T.P. No. |
Dimension |
Test & FEM Results |
Shell |
Web |
Groove |
W/T0 |
T/T0 |
Test |
FEM |
A/B |
ST |
T0 |
W |
D |
T |
P(HL60):A |
P(HL60):B |
(mm) |
|
kN |
|
kN |
|
|
B3-0M |
19 |
6 |
0 |
0 |
6 |
- |
0 |
330 |
1.00 |
324 |
1.00 |
1.02 |
B3-11M |
19 |
6 |
15 |
1.25 |
4.5 |
2.5 |
0.75 |
320 |
0.97 |
324 |
1.00 |
0.99 |
B3-13M |
19 |
6 |
15 |
1.5 |
3 |
2.5 |
0.5 |
- |
- |
322 |
0.99 |
- |
B3-21M |
19 |
6 |
15 |
2 |
2 |
2.5 |
0.33 |
- |
- |
317 |
0.98 |
- |
B3-12M |
19 |
6 |
30 |
1.25 |
4.5 |
5 |
0.75 |
320 |
0.97 |
323 |
1.00 |
0.99 |
B3-8M |
19 |
6 |
30 |
1.5 |
3 |
5 |
0.5 |
- |
- |
321 |
0.99 |
- |
B3-M1 |
19 |
6 |
30 |
2 |
2 |
5 |
0.33 |
- |
- |
313 |
0.97 |
- |
|
P(HL 60): Load at HL = 60mm
|
Table 7 |
Summary of effect of grooving on static strength fillet welded joint 2) |
Stress condition |
Grooving at fillet welded joint |
Efect o shape of grooving |
to ensure 75% of as-built strength |
Depth of Grooving |
Width |
Tensile |
Yes
dependency on □
□<1: Web failure
□>1: Bead failure |
No |
Web thickness should be larger than 75% of as-built thickness. |
Parallel shear (Weld bead) |
Normal shear |
Bending |
□<1.4: Web failure
□>1.4: Bead failure |
Compressive by four points bending test |
Yes
(Lateral deflection) |
Yes |
□=1
W/T0<10 for L75 (T75)
W/T0<3 for L50 (T50)
W/T0<1.5 for L33 (T33) |
|
□= [Thickness of web plate (T) ]/[Total thickness of throat (2n)]
T0= Thickness of web plate with no grooving
T = Thickness of web plate at grooving
W = Grooving width, L=Length of leg of weld bead,
n = Thickness of throat
|
5. 考察
前報2)(Table 7参照)で示したように、船体隅肉溶接部に溝状腐食が存在する場合、応力状態(単純引張、単純せん断、単純曲げ、曲げ圧縮)により、溝深さや溝幅の影響が明らかに異なり、単純引張、単純せん断、単純曲げ応力状態が考えられる場合には、溝状腐食による溝深さ即ち溝食部のウェブ板厚や溶接金属のど厚の減少に十分注意する必要があること、また、曲げ圧縮応力状態が考えられる場合には、溝状腐食の深さとともに溝幅にも十分注意する必要があることが分かる。
今回の研究結果から、曲げ圧縮応力状態にある防撓材のウェブに横倒れ防止の無い自立型でも、局所的に大きな圧縮応力分布が有る場合には同様の結果になることが予測される。
また、中型構造試験体での解析結果のように、曲げが支配的で、局所的な面外変形を引き起こす曲げ圧縮応力領域が限定的で小さい場合には、最大強度に及ぼす溝状腐食の影響は少ないものと考えられる。このことから、“面外曲げ変形を引き起こす曲げ圧縮応力領域が小さい場合には、構造物の最終強度に及ぼす溝状腐食の影響は少ない”ものと考えられる。
今後は、船体縦曲げ荷重下における縦通梁のように、完全圧縮応力領域になった場合等について調査する。このように、船体各部の応力状態や腐食状態に対応した隅肉溶接部の腐食予備厚や補修基準・切り替え基準を考える必要がある。尚、溶接残留応力については、今後検討する必要が有るものと考える。
6. 結言
曲げ圧縮応力状態にある自立型(ウェブに横倒れ防止の無い場合)防撓材の最終強度に及ぼす溝状腐食の影響について、調査した。主な結果は以下の通りである。
1)自立型防撓材の場合もウェブに横倒れ拘束がある場合と同様の影響を示した。即ち、
(1)最終形態は、ウェブの大変形(面外横変形)である。
(2)溝形状(溝深さ、溝幅)は明らかに最終強度に影響を及ぼす。例えば、建造時強度の75%以上とした場合、“溝部板厚が建造時の75%でW/T0<10、50%でW/T0<3”と予測される。ここに、Wは溝幅、T0はウェブの元板厚。
2)ウェブ板の傾斜角度は明らかに最終強度に影響を及ぼす。例えば、傾斜角度20°の場合、最終強度の減少は最大約2割である。
3)フェイス形状(T型、L型)の影響は少ない。
4)最大荷重後、ウェプは中央部・外板側で横方向に面外変形しているが、外板とウェブとの隅肉溶接部での変形は少ない。
尚、実構造での溝食を検討する場合には、隅肉溶接部の連続性や実際の応力状態、さらに溝食の腐食衰耗量の不均一性を考慮する必要が有るものと考えられるが、これらは今後の課題としたい。
参考文献
1)松下, 中井, 山本:船体用隅肉溶接部の静的強度に及ぼす腐食衰耗の影響, 造学論, 195号, p.291-297
2)松下, 中井, 山本:船体隅肉溶接部の曲げ圧縮強度に及ぼす溝状腐食の影響, 造学論, 196号, p.199-206
3)松下, 中井, 山本:同上, 平成15年度ClassNK研究発表会講演集, pp49-58
4)松下, 中井, 山本, 荒井:船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第1報)−実部材での腐食ピット影響調査−, 造学論, 第192号, 2002, pp357-365
5)中井, 松下, 山本, 荒井:バルクキャリア倉内肋骨の腐食実態と強度, NK誌, 第262号, 平成15(I), 2003, p.27-34 他
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