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4.2.5 防汚性能
(1)実海域暴露試験
(a)試験方法
 試作塗料を試験板(サンドブラスト鋼板300×100×2.3mm: エポキシ塗料+ビニルバインダー塗装済)に0.4ミルアプリケーターにて塗装後、常温で7日間以上乾燥させ海上試験筏(広島湾内)において海水に浸漬させ、経時の海生生物の付着状況を確認した。
(b)試験結果
 一次試験における組成WW-041(1)〜(3)の浸漬期間2.6ヶ月及び6ヶ月の結果を表4.2.5-1に示す。付着物はスライムのみであったが、浸漬期間2.6ヶ月経過時ではいずれのサンプルもほとんど差異は認められない。しかし、6ヶ月経過後では1液目の顔料組成が亜酸化銅単体(WW-041(1))より酸化チタン((2))、酸化亜鉛((3))が添加された組成がやや良好であった。溶剤系との比較では溶剤系亜酸化銅タイプ(2)が最良で、WW-041(2)、(3)がそれに続き、溶剤系亜酸化銅タイプ(1)とWW-041(1)が同等の成績でやや不良であった。
 
表4.2.5-1 一次実海域暴露試験
表中の評価基準 良好 ○>○’>□>△>▲>× 不良
 
 二次、三次試験においては、防汚剤を亜酸化銅、有機防汚剤Aにし、チタン白添加にて検討した結果、樹脂による顕著差は認められなかった。
 四次試験にて混合後の可使時間が長い有機防汚剤Bとの亜酸化銅の組合せを検討し、有機防汚剤Bが有機防汚剤Aほぼ同等の性能であることを確認した。その結果を表4.2.3-2及び表4.2.3-3に示す。
 
表4.2.5-2 四次実海域暴露試験(有機防汚剤A使用)
評価:付着程度 少ない ○>○’>□>△>▲>× 多い
 
表4.2.5-3 四次実海域暴露試験(有機防汚剤B使用)
評価:付着程度 少ない ○>○’>□>△>▲>× 多い
 
(2)銅の溶出試験
 防汚塗料の防汚性能確認方法としては、塗膜よりの亜酸化銅の溶出量を測定した。
(a)試験方法
 試験方法は、ISO15181-1、2に準拠し実施した。試験片は供試塗料1種に対し繰返し数3回とし、溶出速度はその平均値とした。
 銅の検出はICP発光分光分析装置を使用。
 一次試験おいて、組成WW-041-(5)(使用樹脂はWB002)と溶剤系現用塗料(1)及び(2)との比較を行なった。
 最終確認として五次試験組成WW-051-(1)(使用樹脂は試作品16とEM8の2種)と溶剤系現用塗料(1)及び(2)との比較を行なった。
(b)試験結果
 一次試験における組成WW-041-(5)は溶剤系現用塗料(2)に比較すると低い溶出速度を示したが、溶剤系現用塗料(1)とほぼ同じレベルの値を示した。
 組成WW-051(1)(使用樹脂は試作16とEM8の2種)は、EM8が溶剤系現用塗料(1)、(2)より高い値を示し、試作品16は溶剤型現用塗料(2)とほぼ同レベルであった。一次試験の組成WW-041-(5)に比較すれば改善が認められた。
 それらの結果は、図4.2.5-1及び図4.2.5-2に示す。
 
図4.2.5-1  組成WW-041-(5)(使用樹脂はWB002)と溶剤系現用塗料との比較
 組成WW-041-(5)は溶剤系現用塗料(2)に比較すると低い溶出速度を示したが、溶剤系現用塗料(1)とほぼ同じレベルの値を示した。
 
図4.2.5-2 組成WW-051-(1)と溶剤系現用塗料との比較
 組成WW-051(1)(使用樹脂は試作16とEM8の2種)は、EM8が溶剤系現用塗料(1)、(2)より高い値を示し、試作品16は溶剤型現用塗料(2)とほぼ同レベルであった。一次試験の組成WW-041-(5)に比較すれば改善が認められた。
 
 以上の物性試験、防汚性試験結果より判断し実船試験塗装用の塗料を表4.2.5-3に示す組成に決定した。
 
表4.2.5-3 実船への試験塗装組成
組成 WW-051-(1) WW-051-(1)
使用樹脂 EM8 EM8
色相 パープル 赤錆
VOC(EPA法)/計算値 81 78
 
4.3 まとめ
 現在、環境対策により錫フリー防汚塗料になり海水に徐々に溶解させる自己研掃性タイプが最も使用されている。しかし、そのVOC量は400〜600g/Lと大きい。
 その為、低VOCの自己研掃性タイプとし、目標VOCを溶剤系現用塗料の半分以下の200g/L以下とし研究を開始した。
 当初は、溶剤系ハイソリッド樹脂(溶剤系長油アルキッド、溶剤系ポリエステルポリオールの2種)及び水系樹脂(自己乳化型アルキッド樹脂、水溶性オイルフリーアルキッド樹脂の2種)を検討した。しかし、溶剤型ハイソリッド樹脂では乾燥性に問題が認められ、水溶性オイルフリーアルキッド樹脂も常温おける乾燥性が非常に遅く、自己乳化型アルキッド樹脂に絞り検討した。
 又、ロジン、亜酸化銅を組合せた一液型の検討を行ったが、乾燥性、貯蔵安定性において実用範囲とならなかったためロジンを除去し樹脂と亜酸化銅を分離した二液型で検討を行った。
 その結果、防汚性は概ね良好な結果が得られ、樹脂の酸価をあげることにより乾燥性、塗膜硬度に改良が認められ、油長を減らすことにより乾燥性の改善は認められたが、耐海水性が劣った。
 その改良として四次試験以降は自己乳化型アルキッド樹脂のノニオン成分の減量を行なうと同時に、アクリル変性エポキシエステル樹脂、アクリルエマルションの検討を加えた。
 その結果、アクリル変性エポキシエステル樹脂は耐海水性に問題を残したが、その他のノニオン成分減量アルキッド樹脂及びアクリルエマルションに向上が認められた。
 最終的には、アクリルエマルションが塗膜物性、塗料物性ともに概ね良好な結果が得られ実船へ試験塗装を行なった。開発品のVOC量は、計算値にて78g/L及び81g/Lであり目標の200g/Lを達成した。
 溶剤系現用塗料の自己研掃性タイプには数種あり、中でも加水分解型が長期間優れた性能を発揮し多く使用されている。今回の開発品は、水系樹脂と着色顔料、防汚剤を組合せ、顔料容量濃度を上げることにより自己研掃性を発揮させるタイプであり、更なる性能向上には加水分解樹脂にする必要があると考える。
 環境問題への関心から、防汚剤使用量を低減した防汚システムが要求されている。現用錫フリー加水分解型も銅化合物フリー、防汚剤フリーが開発されている。今後は、性能向上はもちろん環境対策が重要であり環境にやさしい塗料の研究が進むと考える。


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