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4.2 塗料化の研究
4.2.1 現用塗料での基礎研究
(1)現用塗料の基礎研究
 現在、最も多く市販されている錫フリー防汚塗料のVOCは、下表の代表的な市販塗料の測定結果に示されるように400-600g/L程度はあるものと考えられる。
 
表4.2.1-1 市販塗料のVOC測定結果
サンプル名 A社防汚塗料 B社防汚塗料 C社防汚塗料
加熱残分(%) 71 64 74
比重 1.85 1.56 1.88
VOC(g/L) 529 558 498
 
(2)VOC低減化技術の探索
 現用の防汚塗料は、加水分解型(海水に徐々に溶解する機能を有するもの)が主流であり、溶出機構保持のためには樹脂構造に制限がある。
 現在、加水分解型防汚塗料に限定するとVOC量400-600g/Lを200g/Lに低減することは既存の樹脂系では困難と考えられるため、幅広く樹脂を検索した。
 
4.2.2 新基礎樹脂系の基礎研究
(1)VOC低減の塗料設計要素
 VOC量は、下記の式(1)で計算される。
VOC= Wsolv/Vpaint (1)
NV= (Wpaint - Wsolv)/Wpaint x 100 (2)
=[1- (Wsolv/Wpaint)] x 100
SG= Wpaint / Vpaint x 1000 (3)
 
式(1)、(3)より
VOC= Wsolv x (SG x 1000/Wpaint) (4)
= SG x (Wsolv / Wpaint) x 1000 (5)
= SG x (1-NV / 100) x 1000 (6)
VOC: VOC量(g/L)
NV: 塗料の不揮発分重量比(%)
Sg: 塗料の比重(g/ml)
Wpaint: 塗料の重量(g)
Wsolv: 塗料中の溶剤重量(g)
Vpaint: 塗料の容量(L)
 
 式(1)より式(4)が導かれ、VOC削減には塗料の比重低減および塗料不揮発分増加が要因となる。
 なお、米国EPAでは水系塗料のVOCを下記式で算出する。
VOC= (Wsolv - Wwater) / (Vpaint - Vwater)  (7)
= (Wsolv) / (Vpaint-Vwater) - (Wwater) / (Vpaint-Vwater) (8)
Wwater: 塗料中の水分の重量(g)
Vwater: 塗料中の水分の容量(L)
 
(2)VOC低減化技術の探索
 亜酸化銅を使用する一般的な防汚塗料の比重は1.5-2.0の範囲にある。VOCの目標値達成には上記式により、塗料の不揮発分(NV%)は87-90%である必要がある。
 
表4.2.1-2 防汚塗料のVOC
塗料比重
SG
不揮発分
NV
VOC
1.5
1.8
2
87
89
90
195
198
200
 
 以上の条件に適合する塗料用樹脂として、日立化成工業株式会社よりサンプルが提供され低減化技術の検討を行なった。
 
4.2.3 VOC低減化技術
 防汚塗料中のVOC量を200g/Lへ低減する技術としては、二つの方法が考えられる。一つは現用の塗料をハイソリッド化する方法であり、もう一つは水系である。
 上記二つの手法を目的とした樹脂サンプルが一次試験として提供されたが、ハイソリッド化を目的としたサンプルは乾燥が非常に遅く塗膜形成が困難であった。そのためハイソリッド化については検討を中止し、水系に絞り検討を行った。
 その後、塗膜物性改良、防汚性改良を目的として二次、三次、四次、五次と提供があり、各サンプルの内容を表4.2.3-1に、組成を表4.2.3-2〜5に示す。
 各試験の経緯は、下記の通りである。
 
(1)一次試験
 提供された4種(溶剤系2種/S-001及びS-002、水系2種/WB-002及びWB-004)の樹脂を使用した防汚塗料を試作し性状、性能を確認した。
 溶剤系でVOC194g/Lの塗料を得た。各塗料の粘度は380cps、1,260cpsであり塗装可能な塗料を作成できたが、S-001、S-002の乾燥は遅く塗膜形成が困難であった。水系でVOC116g/L及び160g/Lの塗料を得た。各塗料の粘度は1,000cps、1,340cpsであり塗装可能な塗料を作成できた。WB-002は塗膜形成性に問題はないものの顔料が再凝集する傾向があった。WB-004は乾燥が遅く塗膜形成が困難であった。
 上記のように4サンプルでVOC200g/Lを達成する塗料は得られたものの、塗膜形成上の問題が生じた。
 溶剤系樹脂では1日以内の乾燥時間を得ることが技術的に困難と考えられ、又、水系WB-004は常温7日以上と乾燥時間が非常に遅いため、水系WB-002(自己乳化型アルキッド樹脂)に絞込み検討を行なった。
 当初、ロジン、亜酸化銅を組合せた一液型の検討を行ったが、乾燥性、貯蔵安定性において実用範囲とならなかったためロジンを除去し樹脂と亜酸化銅を分離した二液型で検討を行った。検討組成は、表4.2.3-2及び3に示す。
 
(2)二次試験
 一次試験の課題である耐海水性、乾燥性の改良を目的とした試作品1〜6のサンプル提供を受けこれらを評価した。検討組成は、表4.2.3-4に示す。
 
(3)三次試験
 二次試験に引き続き、耐海水性、乾燥性の改良を目的とした試作品7、9〜14のサンプル提供を受け評価した。
 評価においては二次試験の組成、表4.2.2-3中のWW-047(1)〜(3)の組成で試験を行った。なお、試作品11〜14については二次試験においてWW-047(1)〜(3)について大きな差異が認められなかったことから、WW-47(1)のみの評価とした。
 
(4)四次試験
 前回までの問題点として乾燥性不良、海水への浸漬おける塗膜軟化が挙げられ、乾燥性、耐海水性の改良を目的とし評価した。
 サンプルは、自己乳化型アルキッド樹脂系の試作品16、20に加え、アクリル変性エポキシエステル(W790系)、及びアクリルエマルションEMl〜5を検討した。検討配合は、表4.2.3-5に示す。なお、試作品20は塗料混合時にゲル化するため除いた。


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