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3.2.3 VOC低減化技術の探索
 高不揮発分と低粘度化への手法は、塗料液側での取り組みとしてエポキシ樹脂ワニスの高不揮発分化と低粘度化を両立する樹脂の選択と特殊合成樹脂ワニスも同様の樹脂系を選択する必要がある。また、硬化剤側での取り組みとして、防食性能有する高不揮発分と低粘度化を両立する樹脂の選択が必要である。
(1)溶剤系塗料と無溶剤系塗料の組成
 代表的な溶剤系塗料と無溶剤系塗料の組成を表3.2.3-1に示す。
 
表3.2.3-1 溶剤系塗料と無溶剤系塗料の組成
溶剤系塗料 無溶剤系塗料
塗料液 着色・特殊合成顔料 着色・特殊合成顔料
体質顔料 体質顔料
エポキシ樹脂ワニス エポキシ樹脂ワニス
特殊合成樹脂ワニス -
添加剤 添加剤
溶剤 -
硬化剤 変性脂肪族ポリアミン樹脂ワニス 変性脂肪族ポリアミン樹脂ワニス
添加剤 -
溶剤 -
 
(2)エポキシ樹脂ワニスの低粘度化
 ビスフェノールAタイプの液状エポキシに反応性樹脂を添加した場合の、粘度と不揮発分の関係について表3.2.3-2に示す。
 反応樹脂量を20%以上併用することで、高不揮発分と低粘度化が計れることが分った。
 
表3.2.3-2 エポキシ樹脂ワニスの低粘度化
重量比 EP828 100 80 70 60 0
反応樹脂 0 20 30 40 100
粘度25℃(mPa・s) 12000〜
15000
2300 850 370 40
不揮発分(%)l10℃×1hrs 100 100 100 100 100
 
(3)特殊合成樹脂ワニスの低粘度化
 従来品の特殊合成樹脂ワニスを低分子化したデーターを表3.2.3-3に示す。
 低分子化することで、ある程度の低粘度化が計られ、かつ高不揮発分の樹脂が得られるが低粘度化と高不揮発分の両立には限界が認められる。
 
表3.2.3-3 特殊合成樹脂ワニスの低粘度化品
従来品 A B
粘度25℃(mPa・s) 1000 62 320
不揮発分(%)110℃×1hrs 96.41 72.63 98.3
 
(4)硬化剤樹脂の低粘度化
 従来の変性樹脂族ポリアミンを低粘度化した低粘度硬化剤を表3.2.3-4に示す。
 
表3.2.3-4 硬化剤樹脂の低粘度化品
従来品 A
変性脂環式
ポリアミン
B
変性脂肪族
ポリアミン
C
変性脂肪族
ポリアミン
D
変性脂肪族
ポリアミン
粘度25℃(mPa・s) 5000 450 240 1000 375
 
3.2.4 塗料化によるVOC低減化
 VOC低減化技術探索から得られた知見より塗料化によるVOC低減化検討を実施した。
(1)現用樹脂系の塗料
(a)反応性樹脂剤量と硬化剤種による塗料性状
 主剤/反応性樹脂を70/30〜60/40の範囲で振らし、3種の硬化剤を選択した塗料系で塗料特数値の調査を行った。その結果、VOCは62〜84g/Lの範囲の塗料が得られることが分った。また、特数面では反応性樹脂量が多いほど使用可能時間が長くなり、乾燥性が若干遅くなる傾向が認められた。硬化剤では変性脂肪族ポリアミンの方が変性脂環式ポリアミンより乾燥性に優位であることが分った。
(b)非反応性樹脂添加による塗料性状
 主剤/反応性樹脂重量比を固定(60/20)し2種の非反応性樹脂とベンジルアルコールを用い塗料化検討を実施した。ベンジルアルコールを含まない非反応性樹脂系ではVOC量が50g/L以下の塗料が得られるが高粘度傾向にあった。
 又、非反応性樹脂の影響により乾燥性が遅くなる傾向が認められた。
(c)硬化剤種による塗料性状
 乾燥性向上のため新規硬化剤(変性脂肪族ポリアミン)を2種類選定し性状を調べた。
 新規硬化剤は乾燥性に寄与することが確認できたが、可使時間は著しく短くなった。
(d)併用樹脂量とVOC量
 主剤と反応性樹脂、非反応性樹脂の配合比を60/40〜80/20、硬化剤・ベンジルアルコールを一定にした塗料を試作し、塗料特数値(VOC、粘性)を調べた。配合比80/20の系がVOCの低い結果が得られ、また粘性面では非反応性樹脂より反応性樹脂の方が低粘度化に寄与することが確認された。配合比60/40は比較的低粘度品は得られるがVOCが達成出来ない結果となった。混合物の粘度には大きな差異は認められず3700〜4280mPa・s(60rpm)の範囲であった。
(e)併用樹脂量と可塑剤の調査
 塗料液の更なる低粘度化・低VOC化の為に、主剤と反応性樹脂、非反応性樹脂の配合比を75/25とし、低VOC化に優位に働くと考える可塑剤をベンジルアルコールの代替材料とし採用し検討を行った。配合比75/25の系でも非反応性樹脂を併用すると低粘度化・低VOC化は難しいが、反応性樹脂単独系若しくは可塑剤を併用した系では低粘度化・低VOC化が計られる事が確認された。然しながら、VOC低減に最も効果のある可塑剤配合は、乾燥課程で塗膜表面に可塑剤がブリードする傾向があり粘着感が残ることが分った。
 併用樹脂量と可塑剤影響調査結果を表3.2.4-1に示す。
 
表3.2.4-1 併用樹脂量と可塑剤の影響調査結果
設計要因 a-1 a-2 a-3
a)主剤 ビスフェノールA型液状エポキシ
b)反応性樹脂 反応性樹脂 反応性樹脂 反応性樹脂
c)非反応性樹脂 (A) - -
塗料液 a)主剤 75 75 75
b)反応性樹脂 15 25 25
c)非反応性樹脂 10 - -
ベンジルアルコール 3.92 3.8 3.8(可塑剤A)
PVC(%) 24 24 24
硬化剤 硬化剤種類 変性脂肪族
ポリアミン
変性脂肪族
ポリアミン
変性脂肪族
ポリアミン
比率 B/D=8/2 B/D=8/2 B/D=8/2
結果 NV(%) 96.08 96.75 98.25
密度 1.49 1.44 1.44
VOC(g/L) 58.4 46.9 25.3
塗料液粘度 mPa・s/25℃ 70000/Over 46400/8850 47500/Over
混合粘度
mPa・s25℃
混合直後 26000/6200 18000/3950 17000/4200
1hrs後 46000/Over 31500/8700 23000/6300
乾燥性20℃dry 300μm 20hrs/良好 20brs 20hrs/粘着少
 
(f)分散剤種と粘性の調査
 低粘度化手法として一般的に考えられている分散剤の効果確認試験を実施した。
 効果がより顕著に発現されるであろうと考え、粘度が比較的高めの試作品No.5の塗料を用い、メーカー3社の5種類の分散剤を一定量(0.5%)添加し効果確認試験を行った。
 試験結果を、表3.2.4-2に示す。試験結果より、分散剤の効果は明らかに認められ粘度が4000〜16000mPa・s(6rpm)低下することが確認された。
 混合粘度も1400〜3,000mPa・s(60rpm)低下することが分り、分散剤の有効性が確認され、現用樹脂を使用した配合でも、塗料性状面では目標達成可能な事が確認された。A社のA-2が最も効果的であったがA-2は酸性の分散剤のため塗料化が困難である。分散剤種と粘性について表3.2.4-2に示す。
 
表3.2.4-2 分散剤種と粘性
設計要因 a)主剤 ビスフェノールA型液状エポキシ
b)反応性樹脂 反応性樹脂
c)非反応性樹脂 非反応性樹脂(A)
塗料液 a)主剤 75
b)反応性樹脂 15
c)非反応性樹脂 10
ベンジルアルコール 3.92
PVC(%) 24
硬化剤 硬化剤種 変性脂肪族ポリアミン
比率 B/D=8/2
各社の添加量0.5% なし A-1 A-2 B-1 B-2 C-1
混合粘度直後
mPa・s/25℃
26000
6200
19000
4250
12000
3200
19000
4200
23000
4800
19000
4300
 
(2)基礎樹脂系の塗料化
(a)基礎樹脂による塗料性状
 基礎樹脂(日立化成(株))で試作した低VOC及び低粘度化品、試作No.S14、S15で塗料化検討を行った。塗料化は、基礎樹脂単独系とビスフェノールA型の汎用液状エポキシとの併用系とし、塗料特数値を調査した。2種類の基礎樹脂単独系は、VOCが高くなり、乾燥後の塗膜表面に粘着が残る問題が確認されたが、ビスフェノールA型の汎用液状エポキシとの併用することで、VOCを低下でき、塗膜粘着性が改良できる結果を得た。粘度特性についてはいずれも混合粘度が、B型粘度60rpm5000mPa・s以上で高粘度のため低粘度化にする必要がある。主剤/基礎樹脂=65/35併用系塗料(b-3、b-6)の混合粘度が低い。その結果を表3.2.4-6と図3.2.4-1に示す。
 
表3.2.4-3 基礎樹脂系の塗料化検討
設計要因 b-1 b-2 b-3 b-4 b-5 b-6
a)主剤 ビスフェノールA型液状エポキシ
b)基礎樹脂 S14 S14 S14 S15 S15 S15
塗料液 a)主剤 75 - 65 75 - 65
b)基礎樹脂 25 100 35 25 100 35
ベンジルアルコール 3.8 3.8 3.8 3.8 3.8 3.8
PVC % 24 24 24 24 24 24
硬化剤 硬化剤種 変性脂肪族ポリアミン(B/D=8/2)
塗料液粘度 mPa・s25℃ 83300
Over
66300
Over
77600
Over
75600
Over
65500
Over
65500
Over
密度 1.55 1.57 1.57 1.56 1.53 1.57
硬化剤粘度 mPa・s25℃ 280
結果 NV(%)110℃xlhrs 97.16 95.14 96.8 96.84 95.27 96.58
密度 1.47 1.48 1.48 1.47 1.48 1.48
VOC(g/L) 41.7 71.9 47.4 46.5 70.0 50.6
混合粘度
mPa・s25℃
混合直後 23800
5950
32500
5730
24000
5230
21300
5550
33000
6250
21500
5150
乾燥性
20℃
20hrs
粘着
良好
無し
良好
有り
良好
無し
良好
有り
良好
有り
良好
無し
 
図3.2.4-1 基礎樹脂によるVOC量
 
(b)基礎樹脂の低粘度化
 基礎樹脂の塗料化で低粘度化を図る必要があり、現行塗料での検討手段の中から分散剤の利用で、低粘度化の検討をおこなった。ただし、分散剤量0.5%固定して検討を行った。
 混合粘度がB型粘度60rpmで3700〜3900mPa・sになる結果が得られた。その結果を表3.2.4-4に示す。
 
表3.2.4-4 基礎樹脂塗料の分散剤と粘性
設計要因 c-1 c-2
a)主剤 ビスフェノールA液状エポキシ
(EP828)
b)基礎樹脂 S14 S15
塗料液 a)主剤 65 65
b)基礎樹脂 35 35
ベンジルアルコール 3.8 3.8
PVC % 24 24
分散剤 0.5% 0.5%
硬化剤 硬化剤種 変性脂肪族ポリアミン
比率 B/D=8/2
塗料液 粘度mPa・s25℃ 67000
Over
58000
Over
密度 1.55 1.57
結果 NV(%)110℃×1hrs 97.0 96.6
密度 1.47 1.47
VOC(g/L) 44.1 50.0
混合粘度
mPa・s25℃
混合直後 15000
3900
15500
3700
1hrs後 26000
7000
27000
6500
乾燥性
(20℃)
20hrs 良好 良好


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